平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊吹亜門『雨と短銃』(東京創元社 ミステリ・フロンティア)

雨と短銃 (ミステリ・フロンティア)

雨と短銃 (ミステリ・フロンティア)

  • 作者:伊吹亜門
  • 発売日: 2021/02/22
  • メディア: 単行本
 

 慶応元年、坂本龍馬の仲介により薩摩藩長州藩は協約を結ばんとしていた。長きに亘った徳川の世から新たな日本の夜明けを迎えるのだ。しかし、一件の凶事が協約の締結を阻む。上洛していた薩摩藩士が稲荷神社の境内で長州藩士を斬り付けたというのだ。更に下手人は目撃者の眼前で、逃げ場のない鳥居道から忽然と姿を眩ませた。このままでは協約協議の決裂は必定、倒幕の志も水泡と帰す。憂慮した龍馬の依頼を受けて、若き尾張藩士・鹿野師光は単身捜査に乗り出す。歴史の大きな転換点の裏で起きた、不可能犯罪の真実とは。破格の評価を受けた『刀と傘 明治京洛推理帖』の前日譚にして、著者初となる時代本格推理長編。
 2021年2月、書下ろし刊行。

 

 2019年、第19回本格ミステリ大賞受賞を『刀と傘 明治京洛推理帖』で受賞した作者の受賞後第1作となる書下ろし長編。前作の探偵役であった尾張藩士・鹿野師光の前日譚で、薩長同盟前夜の話である。
 仇敵同士だった薩長がまさかの手を結ぶという前夜であり、殺人事件を前にした両者の緊迫した関係や、仲介に駆けずり回った坂本龍馬の焦る気持ちなどはよく描かれている。ただ薩長同盟については色々な角度で書かれているから、たとえ歴史の裏話みたいな設定でも、どこかで見たことがあるような、という気分になってしまうのはちょっと残念。
 さらにいえば、不可能犯罪のトリックや殺人事件の動機が分からなくても、犯人などは割と簡単にわかってしまうところも勿体ない。犯人が分かっても楽しめるミステリも当然あるのだが、本作の場合はやはりマイナスに働いているのではないか。そのせいもあるだろうが、長編としては短めの話で収まっており、豪華すぎる登場人物と比較すると、あまりにも小粒な印象を与えている。
 丁寧に書かれていて作品としてはまとまっているし、面白いといえば面白いのだが、物足りない印象を与える一冊。次作に期待したい。