平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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泡坂妻夫他『あなたが名探偵』(創元推理文庫)

スキー場とホテルに隣接した蚊取湖畔の氷上で、男性の死体が発見された。男の首には、包帯が巻きつけられていた――。前日に、病院で作家を名乗る被害者を見かけた慶子と美那。警察から犯行を疑われる二人が、その濡れ衣を晴らすために向かったのは……。「蚊取湖殺人事件」。泡坂妻夫西澤保彦小林泰三麻耶雄嵩法月綸太郎芦辺拓霞流一と、七名の人気ミステリ作家があなたに贈る七つの挑戦状。伏線を鏤めた、トリッキーで精緻な問題編それぞれの記述から、作中の名探偵より先に犯人を推理できますか? 犯人当てミステリ待望の文庫化。(粗筋紹介より引用)

『ミステリーズ!』vol.1(2003年6月号)〜vol.7(2004年10月号)まで掲載。2005年8月、創元クライム・クラブより単行本刊行。2009年4月、文庫化。



蚊取山へスキーに来た美奈と慶子だったが、慶子が足首を怪我して、小田桐外科に運ばれた。そこでは、自称小説家の長沼が受付で保険証がないと揉めていた。翌日、蚊取湖の岸辺の氷の上で、包帯で首を絞められて殺された長沼が発見される。警察は事件現場の近くにいた美奈と慶子を疑っているという。泡坂妻夫「蚊取湖殺人事件」。

失業中の藤川光司が真っ昼間、自宅のフライパンで殴られて殺害された。発見者は保険会社の訪問外交員の女性。家の裏の蔵にあった古美術品百数十点が無くなっていた。容疑者は光司の代わりに働きに出ていた妻の小夜、近所に住む一人息子の允やその妻修子。疑問に挙がったのは、小夜が用意していたまずい弁当がきれいに無くなっていたのに、光司の胃袋には何も入っていなかったことだった。西澤保彦「お弁当ぐるぐる」。

金貸しの蓮井錬治が森の奥深くに住む別荘へ来た男女5人+近所に住む老人・岡崎。昼飯だからと待たされたため、近くを散歩していた5人だったが、戻ってきてみると蓮井の部屋のドアに何かが引っかかって開かない。皆で押すとドアが開き、血だまりの中に蓮井の死体があった。ドアに引っかかっていたのは蓮井の死体だった。窓も鍵がかかっており、部屋は密室だった。小林泰三「大きな森の小さな密室」。

マンション三階の部屋で、大学三年生の緑川が絞殺された。部屋の中にあったヘリオス神像三体のうち二体が打ち砕かれていた。緑川は神像を50000円で購入後色々とついており、二体を買い足すとともに、恋人にも一体購入していた。死体はエアコンの熱風に曝されていた。ドアはガムテープで目張りされていた密室状態。ガスコンロも開き、流し台の蛇口も開きっぱなしだった。発見者は、恋人を含むゼミの仲間3人。麻耶雄嵩ヘリオスの神像」。

小説家の法月綸太郎がカンヅメにされた山中湖畔のリゾートホテルで、ルポライターもどきのプロの恐喝屋が殺された。彼が脅していたのは、ホテルのオーナーだったらしい。法月綸太郎「ゼウスの息子たち」。

犯人当て短編小説の〆切が過ぎて困っていた芦辺拓は、森江春策との会話中、彼がかつて解いた「顔なし館」の事件を思い出す。高原のペンションに来た森江を含む男女5人。深夜、展示室の外から亀尾は、鉄仮面をかぶった裸の女性の絞殺死体を発見する。しかし中に入ろうとするとドアが閉まり、開かなくなった。慌ててオーナーの竜堂を起こし、鍵を開けて中に入るも死体は無かった。しかしこれだけの騒ぎなのに客の1人、かすみの姿が見当たらない。翌朝、雑木林でかすみの死体が発見された。芦辺拓「読者よ欺かれておくれ」。

私立探偵紅門福助は、知人で、映画やドラマの衣装のデザイン、製作などを行う会社を経営している倉石千夏に誘われ、八ヶ岳の別荘にやってきた。2か月前に自作のガラス細工が盗まれて2日後に戻ってきたという奇妙な事件があったため、紛失したときの調査も頼まれていた。ところが夕食のバーベキューの準備中、千夏の夫が殺害された。しかも発見時にはあった左手首が、各方面への連絡中に切断されていた。左手首は、準備されていたバーベキューの火炉で焼かれていた。霞流一「左手でバーベキュー」。



全編犯人当て小説であり、【読者への挑戦】の後、解答が書かれた形式となっている。雑誌掲載時は、解答編は翌号掲載だった。そのためか、いずれも凝ったトリックがあるわけでなく、問題文を読んで推理すれば犯人が推察できるようになっている……はずなんだけど、実際はそうもいかない作品もあるので、やはり犯人当ては難しいというか。

泡坂は、トリック……というよりは偶然の結果による不可思議状況がかなり流動的というか。そこまで都合よくいくのかどうか、ちょっと疑問。

西澤は推理というよりも、一番しっくりくる仮説、と言った方が正しい。単に流れ者の犯人が殺害した後弁当をどこかに捨てた、という説でも間違いではないわけで。どうでもいいが、無駄にキャラの立った刑事たちは余計じゃないか。

小林はあまりにもストレートでわかりやすいというか。

麻耶は本作品中で一番力が入っているように感じた。麻耶作品にしては珍しい、ストレートな謎解き作品で、現場の状況から消去法で犯人がわかる。

法月はなかなか凝った作品。謎解きにこそなっているが、犯人を当てるのは結構難しい。

芦部はさすがに反則。いや、もしかしたらとは思ったけれどね。犯人にあてはまる条件を満たすのは、確かに1人しかいなかったし。

霞は難しい、というかやっぱりバカミスか、と言った感じ。これは解けないだろう。

それでも、各作家が犯人当てに挑んだというのがよく見えてくる作品集。たまにはこういうお遊びもいいだろうと思うし、いつになっても需要があるのだろうと思ってしまう。気楽に謎解きを楽しむには最適。