平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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麻耶雄高『貴族探偵対女探偵』(集英社文庫)

新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む! 事件を解決できるのはどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。(粗筋紹介より引用)



大学を一年で中退し、名探偵と名高い師匠の元で4年半、弟子として勤めた高徳愛香は、癌で45歳の師匠を亡くしてから半年、探偵として必死に全国を駆けずり回った。疲れた愛香は、大学時代の親友である平野紗知に誘われ、彼女の山荘「ガスコン荘」へやってきた。ここの地下には、死体を投げ込むと浮かばないため隠滅できるという“鬼殺しの井戸”がある。大学院生である紗知のゼミの後輩たちも来ていたが、到着当日、紗知の一つ下の院生、笹部恭介が頭を殴られ殺されていた。別荘までの唯一の道である橋が事故で炎上しており、警察はしばらく来られない。愛香は現場に残された証拠から事件を推理する。犯人として名指ししたのは、今年ゼミに入った三年生の妙見千明の恋人で、愛香を“女探偵”と揶揄する髭面男だった。彼の名は別名、貴族探偵。「白きを見れば」。

華族で、大手製薬会社の会長、玉村規明の長女・依子は複数の恋人と付き合っている。安房の人里離れた別荘に来たのは、依子の恋人、中妻尚樹と稲戸井遼一、遅れてやってきた長身で口髭の男、すなわち貴族探偵。そして依子の兄である豊、父・規明と後妻の示津子。そして赤ん坊の礼人と、ベビーシッターの寺原真由。真由は10ヶ月前に尚樹と別れた元恋人だった。その夜、稲戸井が首吊り死体で発見されるが、警察は簡単に偽装と見破った。そして稲戸井が余興の占いで使って手帳が無くなっていた。稲戸井が殺害された時刻に席を外していたのは、尚樹だけだった。依子は三年前の事件で知り合った高徳愛香を呼び出す。「色に出でにけり」。

一時間前、教授会の内部データが盗まれた事件を解いた高徳愛香は、学内で貴族探偵に呼び止められる。彼はガールフレンドで准教授の韮山瞳が栽培に成功した、黄色く発光するキノコを見に来たのだ。ところがゼミ室で、博士課程一年生の大場和則が殺害された。色分けされたティーカップから事件の謎を解く。「むべ山風を」

親友、平野紗知に誘われ、新潟の山間にある温泉旅館「浜梨館」に誘われた愛香。離れにある別館には、願い事をかなえるという座敷童子いづな様がいるのだが、湯が乏しいため、月に一度しか開かれない。インターネットでは隠れパワースポットとして知られている。ところが大手商社の役員の娘、下北香苗の恋人として貴族探偵も来ていた。そして、フラれて自殺した人気HPの管理者の女性の恋人としてインターネット上でたたかれた同じ名前もあった。そして儀式が行われた翌朝、客の一人が殺害されていた。「幣もとりあへず」。

高知県宿毛港から十数キロ離れたところにある、ウミガメが産卵のために大量に上陸する亀来島がある。愛香は、名無しの依頼人から通常の倍額の前金と切符が入った依頼書により、この島に来た。島の持ち主は、元伯爵で重工業関係の門閥として名高い具同家の当主、政次。具同家の別荘には玉村依子と貴族探偵もいた。到着から三日後、使用人の平田が殺害された。嵐で警察は来ることができない。「なほあまりある」。

小説すばる』2011〜2012年に掲載された4編に書下ろしを加え、2013年10月、集英社より単行本刊行。2016年9月、文庫化。



あの『貴族探偵』の続編だが、今回は女探偵高徳愛香が全編で登場。貴族探偵と推理合戦を繰り広げる。もっとも、実際に推理するのは貴族探偵の使用人であることは、今回も変わらない。

全編貴族探偵対女探偵、しかも愛香が貴族探偵を犯人と名指しし、貴族探偵(の使用人)が愛香の推理の見落とした部分と真犯人を指摘する。悉く愛香が貴族探偵に敗れるため、読んでいてだんだんつまらなくなってくるのは事実。多重解決ものだが、愛香の推理がちょっと抜けているのが読者にもわかってしまい、推理合戦としての面白さが削がれている。「白きを見れば」「色に出でにけり」あたりは、なぜ途中まで解決に辿り着きながら、最後の最後で真の解決に至る推理ができないのか、不思議なくらいである。

ちょっと毛色が変わるのは「幣もとりあへず」。最初は誤植かと思ったが、複数の個所に亘っているため、誤植ではなかった。つまり、作者のある狙いがどうどうと示されているのだが、なぜこのトリックを使うのか、さっぱりわからないし、面白くもない。

最後は書下ろし「なほあまりある」。まあ、読者のだれもが思っていた、ある意味予定調和な終わり方。

最初の方は面白かったが、先に書いた通り、だんだん退屈になっていった。といって、このキャラクターだと長編は非常に難しい。正直言ってこのシリーズ、正体暴き以外はもう読まなくてもいいのではないかと思ってしまう。