- 作者: 北重人
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/01/10
- メディア: 文庫
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2004年、第11回松本清張賞最終候補(受賞作は山本兼一『火天の城』)。応募時タイトル『天明、
作者は1999年、「超高層に懸かる月と、骨と」で第38回オール讀物推理小説新人賞を受賞している。松本清張賞の最終候補作となるも惜しくも受賞できなかったが、選考委員だった伊集院静と大沢在昌の強い推薦により出版された。しかもタイトルを付けたのは、伊集院静である。
読んでみると、これが本当に面白い。なぜこれが受賞できなかったのか、不思議なくらい(受賞作は読んでいないので、比較できないが)。
主人公は、旗本の妾腹の子ということで家を出ている三男坊の立原周乃介。刀剣の仲介、道場の師範代、そして世の中の揉め事の処理で生きている。住んでいるのは元鳥越、鳥越明神のそばにある
この作品のすごいところは、江戸の長屋を舞台にした人情話があり、越後までの旅話があり、悪徳商人を追いつめる捕り物があり、そして凄腕の剣の闘いがあり、恋物語話があり……それらが絶妙なくらいブレンドされていて、一つの長編として成り立っている点だ。なぜこれだけの枚数で、こんな濃い内容の作品が書けるのだろう。とても新人が書いた作品とは思えない。しかも味わいがあって、どことなく切なくて……。
ここの所、作者の作品を少しずつ読み進めているのだが、本当にすごい。傑作ぞろい。派手ではなく、地味に見えるところもあるが温かみがあって、登場人物が際立っている。誉めてばかりだが、誉めるところしかないのだから仕方がない。なぜ出版当時、こんな傑作を読み落としていたのだろう。これからも少しずつ読んでいこう。