平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森村誠一『致死海流』(光文社文庫)

致死海流 (光文社文庫)

致死海流 (光文社文庫)

潮流に運ばれ、犬吠埼沖に漂っていた若い女性の死体。一方、八丈富士登山中、行方不明になり、絞殺死体で発見された女性。被害者の宇根沢望と岩井輝子は、いずれも八丈島航路「フリージア丸」に乗船していた!――二人の関連をさぐる捜査陣。接点は、和歌山県勝浦にあった。が、犯人と睨んだ男も……?

アリバイ・密室トリックを駆使した殺人! 本格推理の傑作。(粗筋紹介より引用)

1978年6月、カッパノベルスより書き下ろし刊行。1996年8月、光文社文庫化。



当時、人気絶頂だった森村誠一の、5年ぶりとなる書下ろし長編。当時から社会派に本格ミステリのトリックをつぎ込んだ作品を書いていた作者の書下ろしなので、どういう作品かと期待していたが、トリックに重点を置きすぎかなという気がした作品だった。

二人の女性の事件を警察が追ううちに手がかりを見つけ、実はつながりがあったと知り、必死に接点を探し、いつしか容疑者を探して充てるも、今度はその容疑者が殺され……。警察を主人公にすると、こう書いてしまうよな、という作品である。なんというか、捜査陣の執念は感じるが、被害者側、容疑者側のドラマが物足りない。

密室トリックは今一つ(そのぶん、現実味有)だったが、アリバイトリックの方はなかなか複雑。とはいえ、読んでいてワクワクするものでもなかったし、どことなく空回りしている感はあった。

途中でフラッシュバックが挟まり、犯人側のシーンが挟まれるけれど、この手のタイプの作品なら、いっそのこと倒叙ものにしてもよかったんじゃないだろうか。

書下ろしは隅から隅まで構成にこだわることができ、力を入れられるのだが、一つ間違えるとくどすぎる部分が出てくる。連載は後から書き緒なおすことは難しいが、その都度山場を作る必要があるので、盛り上がりという点では申し分ない。本作品の場合、書下ろしならではの力の入れ過ぎが悪い方向に働いた感がある。小説とはなかなか難しい。