平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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鳥飼否宇『中空』(角川文庫)

中空 (角川文庫)

中空 (角川文庫)

何十年に一度、開花するという竹の花。その撮影のために鳶山と猫田は、大隅半島の南端に近い竹茂村を訪れた。そこは老荘思想を規範に暮らすひなびた七世帯の村だった。村人は二十年前に起きた連続殺人事件の、再来におびえながら過ごしていた。そして、怖れていた忌まわしい殺人事件が次々と起こる!! 閉鎖された村の異質な人間関係の中に潜む犯人とは!? 横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞の本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)

2001年、第21回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞。同年5月、単行本で発売。2004年5月、文庫化。



横溝賞優秀賞で、そのときの大賞は川崎草志『長い腕』。本格ミステリファンからの評判は、『長い腕』よりも『中空』の方がよかったように覚えている。

観察者の鳶山久志が名探偵で、写真家の猫田夏海がワトソン役という、本格ミステリの王道スタイル。舞台は竹に囲まれた、七世帯の村。しかも20年前に連続殺人事件が起きており、今回新たに連続殺人が発生するという、これまた本格ミステリファンが喜びそうな話。横溝正史のようなおどろおどろしい部分が無いのはちょっと残念だが、竹に関する描写が非常に魅力的である。これだけでも一読の価値はある。もうちょっと現想定な風景の描写が欲しかったと思うが、仕方ないか。

鳶山、猫田と村人とのやり取り、特に老荘思想に関する部分については、個人的な好みでいってしまうと退屈。この部分は読者の好みが分かれそう。

本格ミステリとしての謎は、今一つか。伏線が張られているとはいえ、名探偵がワトソン役に情報を隠しているというのはちょっと拍子抜けであった。そのせいか、結末の驚きという点は欠けていたのが残念。

設定はいいのだが、小説としての面白さは今一つ。その点が、『長い腕』に負けた点ではないか。

このコンビは、観察者シリーズと名付けられて続いているとのこと。もうちょっと魅力的な造形にしてほしかったな。