平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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霞流一『おなじ墓のムジナ 枕倉北商店街殺人事件』(カドカワノベルズ)

朝の6時から人だかりのする商店街。騒ぎの主は、なんと通りの入り口に置かれた瀬戸物の猩猩ダヌキだった! 一体誰が何のために!? その後、書店に頼みもしないタヌキそばが十杯出前されたり、喫茶店の前に茶釜が置かれたり、タヌキがらみの奇妙な事件が続発した。そして四日後、こんどは商店街の仲間の一人が何者かに殺害された! まず、第一発見者の唐岸書店の長男・誠矢に嫌疑がかかった。もう傍観者でいられなくなった誠矢は、身の潔白を証明するため、事件の真相を追求し始める。だが、その直後、第二の殺人事件が起きて……。

最初から最後まで狸づくしの書下し傑作ユーモアミステリー!(粗筋紹介より引用)

1994年、第14回横溝正史賞佳作受賞。1994年5月、刊行。



バカミスキング、霞流一のデビュー作。何から何まで狸づくしの一作。

ワトソン役は、30歳にて失業中の唐岸誠矢。相方は隣に住む酒屋の娘で印刷会社に勤めるノボこと滝沢登子。推理の舞台は小作りの居酒屋「うつつ」で、探偵役は包丁を握る由良仙太郎。後見役は、店の持ち主であるオールドパーこと畑原春雄。誠矢が中心に情報を集め、毎晩「うつつ」で飲みながら情報を交換し合い、推理を繰り広げる。

最初は日常の謎かな、と思わせるようなタヌキをめぐるバカバカしい事件が続いたと思ったら、とうとう本物の殺人事件が発生する。殺人事件まで狸の手がかりが残されていることから、いったいどこまで狸を引っ張るつもりかと思ったら、とうとう最後まで引っ張ったのにはあっぱれと言いたい。それにしても、タヌキにまつわる故事などをよくぞここまで調べたものだと感心した。最後に犯人を特定するロジックもなかなか。ギャグあり、ユーモアあり、ペーソスあり、といった軽い作風の中で、伏線を貼り、最後は推理で解決するしっかりした本格ミステリになっている。惜しむらくは、登場人物が最初から多すぎて区別がつかないところか。

正直受賞作でもよかったんじゃないかと思ったが、この時の受賞作が『ヴィオロンのため息の―高原のDデイ―』であったのなら、佳作止まりも仕方がないところか。こういうとき、軽そうに見えるユーモアミステリは損かもしれない。せめて前年に応募されていたらなあ……。ただ、横溝賞とユーモアミステリは肌が合わない気もする。応募先を間違えたんじゃないか、と言いたい。

これで横溝正史賞、コンプリート!。まあ、最終候補作で刊行されている作品もあるが、さすがにそこまでは手を出す気力が起きない。9月末には最新受賞作が出るし、そちらはすぐに買うかどうかはわからないので、このコンプリート達成自己満足もわずか1か月程度の話なのだが。次は鮎川賞かな。こちらもあと数冊だし。