平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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白石かおる『僕と『彼女』の首なし死体』(角川書店)

僕と『彼女』の首なし死体

僕と『彼女』の首なし死体

僕=白石かおるは商社勤めのサラリーマン。自宅で切り落とした女性の首を渋谷の街に置き、ある「知らせ」を待っている。だが進展がないまま、自宅に何者かが侵入し、保管してある遺体から指を切り取って公園に遺棄した。不気味な模倣犯の目的は……? そして数日後、東京を襲った地震が事態を一気に加速させ――この謎はとても切なく、震えるほどに新しい。横溝正史ミステリ大賞の新しい地平をひらいた異色ミステリ。(粗筋紹介より引用)

2009年、第29回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞。同年6月、刊行。



作者は白石かおる名義で2000年に第5回スニーカー大賞奨励賞を受賞しデビューし、計2冊刊行。2004年に福田政雄名義で第3回スーパーダッシュ小説新人賞佳作を受賞し再デビューし、3冊刊行している。

主人公と作者の名前が同じだし、冒頭から生首を持って渋谷の街を歩くという異常な行動から異常心理ものかなと思ったら全然違った。主人公は一流総合商社に勤める若手サラリーマンで、合理的な思考能力、そしてピンチに対する大胆なアイディアとそれを実行できる行動力を持ち合わせたホープ。そんな彼がなぜ生首を公園に置いていったのか。そして自宅に侵入したものはいったいだれか。一応ミステリらしい謎はあるものの、後者については割と簡単に想像できる(機会を考えたらこいつしかいないのだが、こいつが犯人だったらつまらないなあ、と思った人物が犯人だった)。ということで結局どんな分野かというと……なんだろう。青春小説の味に近い気がする。表紙のイラストも、多分それを狙っているのだろうなあ、と思った次第。

嫌な描き方をするが、キャラクター小説でしかなかった。そのキャラクターを好きになれるか、嫌いになれるかでこの小説の評価が変わるだろう。選評における坂東眞砂子の酷評もわからないではない。ただ、作者にとっては少々荷が重すぎると思われるキャラクターをがんばって使おうという姿勢は結構好きだ。

2013年3月には、主人公が探偵役となる短編集『誰もが僕に『探偵』をやらせたがる』が刊行されている。気が向いたら読んでみよう。