- 作者: 蓮見恭子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/09/25
- メディア: 単行本
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2012年、日本ホラー小説大賞読者賞受賞。同年10月、角川ホラー文庫より刊行。
阪神競馬場で一頭の馬が暴れ、レース中に起きた不自然な落馬事故。勝利した女性騎手・夏海は、重傷を負った幼馴染み・陽介のため、事故を調べ始める。優勝は自分。八百長であったはずはない。しかし、馬の所属する厩舎は経済的に困窮、馬主と調教師が対立していた。折しも陽介の父が、厩舎で何者かに殴られた。親子を狙った犯罪か? 厩舎で何が? 夏海は、トレーニングセンターや競馬場へと赴き、元同僚や新人騎手に会ううちに、ある疑いを抱き――。第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。(帯より引用)
2010年、第30回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞。応募時タイトル「薔薇という名の馬」。同年9月、単行本化。
競馬ミステリと言えば第一にディック・フランシスが思い浮かぶ。もちろん新人作家にそこまでの面白さを求めるのは無理だとわかっているが、どこまでできるかという点で楽しみだった。しかし読み終わってみると、設定を生かし切れていない感がある。
問題かなと思われた一点目は、登場人物が序盤から多すぎて、誰が誰だかわからないこと。二点目は、競馬の世界や用語の説明が、妙に詳しいものと、ほとんど説明していないものが混在しており、結局何が何だかよくわからなかったこと。そして三点目で最も問題なのは、主人公の紺野夏海に魅力が乏しく、そもそもなぜ事件の謎を解こうとしているのかがわからないこと。幾ら落馬事故の被害者が幼馴染みだとはいえ、恋愛関係にあるわけでもなく、また殴打事件の容疑者が動機の元女騎手だからだとしても必然性に乏しい。夏海の動機が書かれていないから、違和感を抱きながら読み進めたまま終わってしまった。名騎手の娘という設定も、ほとんど活かされていない。馬の描写は結構よかったのに、肝心の人の描写がダメというのは本末転倒である。
事件のトリックは小粒なものだが、競馬の世界という舞台設定にはよく合っているとは思った。推理が全然無いのは少し気になる。また、事件の背景については、説明を聞いてもよくわからなかった。あと、幾ら馬を守るためとはいえ、あんな調教をするかな。虐待になっているとしか思えない。
競馬の世界を知っている人なら楽しめるのかも知れない。重賞といわれてもさっぱりわからない私のような競馬オンチにとっては、何が何だかわからないまま終わってしまった。舞台も登場人物も背景も、もう少し整理してほしかった。女性騎手が主人公でなかったら、受賞できなかっただろう。少なくともフランシスは、競馬の世界を知らなくても楽しめる巧さがある。そこをまず目指さないと、このまま競馬ミステリを書き続けようとするならかなり厳しい。続編はあるらしいが、読む気にはならなかった。
どうでもいいけれど、フランシスを目指すならタイトルも二文字にすればよかったのに。