平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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笠井潔編『本格ミステリの現在』上下(双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集第91-92巻)

綾辻行人十角館の殺人』で扉が開けられた<新本格>・10年後、活気あふれる本格ミステリの核となっている作家に、気鋭の評論家が独自の視点でアプローチしていく。上巻では、その綾辻をはじめ、竹本健治笠井潔島田荘司東野圭吾折原一法月綸太郎有栖川有栖と、<新本格>以前からの流れを踏まえつつ、8人の作家が論じられる。(上巻粗筋紹介より引用)

ますます多様化していった1990年代の日本のミステリ界において、本格ミステリはどのような姿を見せていたのか。気鋭の評論家による鮮やかな作家論が、それを解き明かしていく。下巻では、宮部みゆき我孫子武丸北村薫山口雅也麻耶雄嵩井上夢人二階堂黎人京極夏彦と、個性的な作品で新たな地平を開いた8人が論じられる。(下巻粗筋より引用)
東京創元社で設けていた創元推理評論賞(1994年〜2003年)の選考委員及び受賞者、入選者で結成された探偵小説研究会のメンバーによる作家論。タイトルこそ『本格ミステリの現在』となっているが、結局は「新本格」以後を中心とした本格ミステリ作家を論じた一冊でしかなく、本格ミステリ全体を俯瞰したものではない。井上夢人宮部みゆき本格ミステリ側から語ってみても、どことなくこじつけにしか見えないのは気のせいか。メタなんか論じられても……という感も強いのだが、やはり論じる人々それぞれが本格ミステリというものはなんなのかという根本的な命題をスルーしているところに問題があると思っている。本格ミステリの命題に共通認識がないから、なんとなくもやもやとしたアンバランスな評論集になっているのだ。これが別に作家論とタイトルを付けてくれているのなら、何とも思わないのだけれども。

そういう意味で本格ミステリを全体的な流れで追っているのは「前書き」の笠井潔だけといっていいかもしれないが、私はこの笠井潔の論法が好きになれない。そもそも、思い込みが強い。全く個人的な印象であり、どこが間違っている、というわけでもないので、それ以上言うことは無い。

ということで、予想以上にがっかり感が強い評論集。ブームに合わせて受賞させただけという気もしなくはない。