平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深水黎一郎『人間の尊厳と八〇〇メートル』(創元推理文庫)

人間の尊厳と八〇〇メートル (創元推理文庫)

人間の尊厳と八〇〇メートル (創元推理文庫)

「俺と八〇〇メートル競走しないかい」。偶然こぢんまりとした酒場に入った“私”は、そこで初対面の謎めいた男に異様な“賭け”を持ちかけられる。男は人間の尊厳のために、競争しなければならないと説くが――。あまりにも意外ない結末を迎える、一夜の密室劇を描いた表題作ほか、極北の国々を旅する日本人青年が装具した二つの美しい謎「北欧二題」、完全犯罪を企む女を待ち受ける皮肉な結末「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」など、本格の気鋭が贈るバラエティ豊かなミステリの饗宴。第64回日本推理作家協会賞受賞作を含む、5篇の謎物語。(粗筋紹介より引用)

ミステリーズ!』『メフィスト』等に掲載された作品に書下ろしを加え、2011年9月、東京創元社より単行本刊行。2014年2月、文庫化。



表題作「人間の尊厳と八〇〇メートル」は推理作家協会賞短編賞受賞作。人間の尊厳のために八〇〇メートルを競争するよう持ちかけられる話だが、落ちがある程度見えているので、どうやって「人間の尊厳」と「八〇〇メートル競争」をこじつけるかに面白さがかかっているのだが……正直言ってこの理論でどうして騙されるのかが分からない。何が評価されたんだろう。

「北欧二題」は作者の実体験を基にしているということ。小品と知ってしまえばそれまでだが、さり気ない美しさはあると思う。

「特別警戒態勢」は、お盆の期間中に皇居を爆破するという予告状が届いて休みがつぶれる家族の話。最初はママが事件の謎を解くのかと思ったら違った。まあ、ショートショートに近い掌編。

「完全犯罪あるいは善人の見えない牙」は完全犯罪を企む女が待ち受けた結末を楽しむ作品。推理クイズにありそうなオチだが、個人的には殺人に至るまでの動機の方が面白かった。

「蜜月旅行 LUNE DE MIEL」はパリへ新婚旅行に行った夫婦の話。ミステリではなく完全な恋愛小説だが、これはこれでありかなと思わせる結末。



確かにバラエティ豊かであることは間違いないけれど、逆の言い方をすればまとまりがない。短編集だと、幅広いジャンルの作品を集めても、この作者らしさ、というのが出てくるものだが、それが本短編集にはない。本当に、てんでバラバラ、といった感じなのだ。これって作者にとってマイナスでしかないような。

個人的には小品の寄せ集め、という印象が強い。長編であれだけ癖のある作品が書けるのだから、短編でももう少し書けそうな気がするのは、余計な期待だろうか。