没後40年、いまなお読者を魅了してやまない横溝正史。その横溝正史の、大人向け探偵小説以上に波乱に富む横溝正史の少年探偵物語を全7冊で贈るシリーズがついに登場。おなじみの名探偵・金田一耕助をはじめ、由利麟太郎、三津木俊助、探偵小僧・御子柴進といった〈横溝正史オールスターキャスト〉が縦横無尽の活躍を見せる! 角川文庫など従来版では改変が多くオリジナル版での刊行が待たれていた作品から、横溝正史のストーリーテラーとしてのもう一つの側面を見せる海洋冒険ものにいたるまで、刊行時の雰囲気を伝える挿絵を多数収録して完全復刻。一般のミステリファンにとってはもちろんのこと、マニアにとっても新鮮な横溝体験が待ち受ける!
シリーズの開幕を飾るのは怪獣男爵――ゴリラの身体と天才科学者の頭脳を併せ持つ稀代の大犯罪者である。その異形の怪人を小山田慎吾博士が迎え撃つ表題作に始まり、ご存じ名探偵・金田一耕助との死闘を描く『大迷宮』『黄金の指紋』へと続く〈怪獣男爵〉三部作を一挙収録。(粗筋紹介より引用)
2021年7月、刊行。
日下三蔵が柏書房で編集した「横溝正史ミステリ短篇コレクション」全6巻、「由利・三津木探偵小説集成」全4巻に続く新シリーズ。横溝正史の少年小説は角川文庫からおおむね出版されている(黄色の背表紙の文字が懐かしい)のだが、山村正夫による改変が多い(作品によっては探偵役が由利から金田一に変えられたものもある)のが難点だった。ということで今回はオリジナル版の刊行となっているので、とてもうれしい話である。しかも未単行本の海洋冒険ものなども出版されるので、期待したい。
第1巻は、ゴリラの体と天才科学者の頭脳を持つ怪獣男爵三作品。初登場の『怪獣男爵』は金田一ではなく小山田博士が対峙するのだが、これは横溝の少年小説ものでも1,2を争う傑作だと思う。何よりも怪獣男爵という設定が素晴らしいし、読んでいて滅茶苦茶恐ろしい。夢に出てきそうな、まさに怪獣である。
ところが『大迷宮』になると、怪獣男爵がただのお宝好きで収まってしまい、「世間に復讐する」目的がどこかに飛んで行ってしまったのは残念。せっかくの「大迷宮」も、乱歩の『大金塊』や『怪奇四十面相』と比べると、暗号とか迷路に迷うなどの展開がないため迫力に欠けるし、せっかくの設定が生かされていない。
『黄金の指紋』になると、怪獣男爵がもっとトーンダウンしてしまい、拍子抜け。それと両作品に言えるのは、金田一耕助には明智小五郎みたいな颯爽とした活躍がまったく似合わない。
怪獣男爵シリーズだけは、小山田博士にずっとやってほしかったな。なんとも勿体ないキャラクターだった。