平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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佐々木譲『笑う警官』(ハルキ文庫)

笑う警官 (ハルキ文庫)

笑う警官 (ハルキ文庫)

札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。(粗筋紹介より引用)

2004年12月、『うたう警官』のタイトルで角川春樹事務所より単行本で発売。2007年5月、文庫化にあたり改題。



改題したのは、映画化時の監督である角川春樹の助言によるものらしいが、何が「笑う」なのかさっぱりわからず、元のタイトルである「うたう」(警察用語で自白を意味する)の方がよっぽどよかったと思う。やっぱりタイトルは作品の顔なのだから、安易な改題はよくない。

本作品は、作者の道警シリーズ第1作。組織的「やらせ捜査」疑惑も持ち上がった稲葉事件と、道警裏金事件にヒントを得て書かれたという。本作品の発端となった事件は稲葉事件と重なるところがあるし、主人公である佐伯警部補や、容疑者として追われる津久井巡査部長が行った「おとり捜査」については、稲葉事件で捕まった稲葉元警部の経歴にもつながるところがある。

ストーリーは、佐伯が有志とともに、ミス道警と呼ばれた女性巡査殺害の容疑をかけられ射殺命令を出された元恋人の津久井を、翌日開かれる道議会の百条委員会に証人と出席するまで匿い、同時に真犯人を一晩で探す、という展開である。タイムリミット・サスペンスの要素もあるせいか、展開は極めてスピーディーで、ページをめくる手は早い。ただ、佐伯、津久井、若手の新宮刑事、総務係の女性小島を除くと、誰が誰なんだかさっぱりわからない。もう少し書きようがあったのではないかと思う。その不満を除けば、結末に至るまでは面白く読めた。

ただ、読み終わってみると不満点も多い。そもそも、この容疑でSATが出てくることが信じられないし、射殺命令を出すこと自体もおかしい。それを不思議に思わない警察官がいることも異常だ。また、表にばれず、簡単に犯人に辿り着くという展開も、よくよく考えてみると都合良すぎ。真犯人は簡単に自白するし、その後の佐伯たちの行動にも疑問点が多い。ラストもちょっとわかりづらい終わり方である。それにあんな場所で派手な騒ぎを起こして、秘密を覆い隠せるとでも思っていたのだろうか。1日で全てを終わらせるために、色々な疑問点・矛盾点を押し込めてしまった感がある。安っぽいドラマならこれでいいかもしれないが、佐々木譲にこんな作品を書いてほしくなかった。

シリーズものにするため、このような作りにしたのかもしれないが、道警の、というか官僚の闇を暴こうという警察小説を書きたいのであったなら、ここはもっとじっくり書いてみても良かったと思う。せっかくの題材を、安っぽく料理して終わった感が強い、残念な作品。