- 作者: 鹿島圭介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/06/27
- メディア: 文庫
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新潮社より2010年3月に単行本刊行。2012年7月、新潮文庫化。
1995年3月30日早朝に発生した国松孝次警察庁長官狙撃事件のノンフィクション。
あくまでオウムにこだわった警視庁公安部。別事件から浮上した老スナイパー中村泰を追う警視庁刑事部。この本を読む限りであるが、サリンなど毒ガスにこだわったオウムがこの事件に限り拳銃「コルト・パイソン」を使い、しかも希少なホローポイントタイプの357マグナム弾。オウムにはこの拳銃や弾を入手する機会はなかった。今までの事件についてはすべて自供してきたオウム幹部たちも、この事件については心当たりがないと否認。一方中村は同様の拳銃を持ち、弾を購入する機会もあった。また狙撃能力も持ち合わせていた。しかし中村は逮捕されることなく、事件は時効を迎える。公安部は時効当日に捜査結果概要をホームページに公開し、オウム真理教信者による組織的なテロと断定し、元巡査長や元幹部など8人を容疑者グループと指摘した。あまりにも不可解としか言いようがないが、その謎については本書において述べられている。
謎が謎を読んだ、国松孝次警察庁長官狙撃事件。すでに何が真実かはわからないが、公安部の捜査が大失敗に終わったことは、この事件が時効を迎えた事実が証明している。警察は時にメンツにこだわって真実が見えなくなることがあり、縄張り争いに精力を使い果たすことがあるが、本事件はその典型的な例だったと言えよう。もちろん、本書に書かれている「推測」が「事実」かどうかはわからないが、中村泰という存在を知ってしまうと、この男が犯人ではないかと思ってしまう。それぐらい本書は衝撃的であった。実際のところは、中村犯人説にも疑問があるらしいが、それでも本書の「説得力」がかなり大きい。
本書は犯罪ノンフィクションとして一級の作品である。題材そのものもよかったと言えるが、やはり隠されていた裏がここまで書かれると、読む方の興味も湧いてくる。面白い作品なので、是非お勧めしたい。