平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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富樫林太郎『生活安全課0係 ファイヤーボール』(祥伝社文庫)

生活安全課0係 ファイヤーボール (祥伝社文庫)

生活安全課0係 ファイヤーボール (祥伝社文庫)

杉並中央署生活安全課に突如誕生した「何でも相談室」。通称0(ゼロ)係。署内の役立たずが集まる島流し部署だ。そこへ科警研から異動してきたキャリアの小早川冬彦警部。マイペースで、無礼千万な男だが知識と観察眼で人の心を次々と読み取っていく。そんな彼がボヤ事件で興味を示した手掛かり、ファイヤーボールとは? KY(空気が読めない)刑事の非常識捜査が真相を暴くシリーズ第一弾!(粗筋紹介より引用)

2013年7月、祥伝社より四六判で刊行。2016年1月、文庫化。



作者は伝奇小説や時代小説、警察小説を書いているとのことだが、全然知りませんでした、ごめんなさい。

主人公の小早川冬彦は東大卒のキャリアで、二十代半ばで警部。中学時代はいじめで引きこもりとなっており、大検で東大に入った経験を持ち、友だちはいない。鬱病の母親と暮らしている。知識はすごいが実技はからっきしダメで、拳銃の実弾訓練では一発目で腰をぬかし、そのはずみで二発目を指導教官の頭上に発射したというほど。そのため、警察庁から科警研に異動させられる。暇なので裏金問題のニュースを見て警察組織の構造の問題点を衝いたレポートを書いて上司に見せたら、本人の知らぬところで問題となり、レポートの存在と引き換えに本人の希望通り二か月後に現場に戻るも、扱いに困った杉並中央署は、新たに生活安全課に「何でも相談室」を設立し、ついてでに署内の問題児を皆放り込んだ。部屋はないので、健康管理室を使うという慌ただしさである。

ギャンブル好きで妻に逃げられたと噂の巡査長、寺田高虎、四十歳は元生活安全課。頭が悪く色白のデブである巡査、植田勇作、二十四歳は元交番勤務。捜査中にスカウトされたほどのモデル体型だが格闘好きですぐに手が出る巡査部長の安智理沙子、二十五歳、元刑事課。気が強くて「鉄の女」と呼ばれる事務方の主任、三浦康子、三十八歳。気が弱くいつもトイレに籠っている警部補で係長の亀山良夫、四十五歳。以上が0係のメンバーである。

杉並署では、暴力団が裏で経営しているという違法カジノの捜査情報が漏洩している問題があり、監査官室から来た二人が内部調査を進めていた。

お笑い芸人を目指しながらまったく目が出ないまま三十三歳になった崎山晋也は、サンドイッチ製造工場の深夜勤務で三年アルバイトをしているが、作業監督の正社員である二十五歳の木村勝男に目を付けられ、ずっと標的にされていた。ふとした偶然から放火の楽しさに取りつかれ、ファイヤーボールと呼ばれる小道具を作り、放火を繰り返していた。

小早川は頭がよく、観察眼が鋭い。解説のDaiGo曰く、捜査にメンタリズムの手法を使っているとのこと。しかし興味のあること以外には全く注意を払わず、他人の気持ちを読めないから平気で秘密を暴いてしまう空気の読めなさ。今時の時代に相応しい主人公とはいえるかもしれない。そんな主人公が、警察に寄せられたちょっとしたことから事件を解決し、空気の読めなさから平気で容疑者のところへ行き、事件をひっかきまわす。うまくいったときは事件を解決するが、時には全くの勘違いで周囲を呆れさせる。

読んでいて面白いと言えば面白いが、それは退屈を忘れる程度の面白さで、小説の重みがあるわけではない。登場人物が秘密を抱えている人ばかりであり、複数の事件が同時進行してスピーディーな展開であることと、主人公の特殊さが退屈させないだけであり、そこから先があるわけでもない。

退屈しのぎにはいいかもしれないが、作者に都合よく展開しているだけの作品ともいえる。そもそもプロファイリングなどの手法が好きになれないこともあり、多分これ以上読むことは無い。