![盤上の敵 (講談社文庫) 盤上の敵 (講談社文庫)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/21KAHJQTXDL._SL160_.jpg)
- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/10/16
- メディア: 文庫
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小説現代別冊『メフィスト』に1998年5月〜翌年9月まで5回連載された作品に加筆修正を加えたもの。1999年9月、講談社より単行本が刊行。2001年10月、ノベルス化。2002年10月、文庫化。
タイトルはエラリー・クイーン『盤面の敵』からによる。
出版された当初から話題になっていた、ノンシリーズ長編作品。当時、北村作品は全て単行本で購入して読んでいたはずなのに、なぜか買うのをためらった作品だった。今回初めて読んでみて、その理由がやっとわかった。面白くないという直感が働いたからだった。
作者がノベルス版で「今、物語によって慰めを得たり、安らかな心を得たいという方には、このお話は不向きです」と断っているとおり、これまでの北村作品では有り得ないような、救いようのない悪意を持つ人物が登場する。確かに読み終わっても、思い出すだけで嫌になるような人物だ。そういう点でも「読まなければよかった」と思わせるような作品ではあるのだが、本作品で面白くなかったのはその点ではない。
粗筋紹介で書かれている「北村マジック」が、私には全く感心できないものだったのだ。
本作品は、白のキングである主人公が、白のクイーンを救い出すべく、色々と動く作品である。物語は、白のキングの行動と、白のクイーンによる回想が交互に並べられ、キングとクイーンの話から、“盤上の敵”が鮮やかに浮かび上がってくる。その手法や構成、最後の“北村マジック”に至るまでの手腕はすごいと思う。ただ感心しないのは、事件発生に至る偶然性や後始末はどうするかといった点も含め、都合がよすぎるとしか思えないところだ。将棋の例えで言うと、相手(読者)は普通に並べているのに、自分(作者)だけ都合の良いように駒を配置し、さらにそれを目隠し将棋よろしく隠しているところである。
そんなことを言ったら、どのミステリでも一緒じゃないの、と言われそう。だが普通の本格ミステリなら「あっ、やられた」と膝を打つのだが、本作品は「何だよ、これ」と呆れてしまったのである。本格ミステリが100%フェアでなければいけないというつもりはないし、叙述ミステリならほとんどは作者の都合に合わせて書いているだろう。そんなことは十分わかっているのだが、それを抜きにしたところで全く感心しなかった作品だったのである。なんだろうね、この読後感。まあ、少なくとも本格ミステリじゃないでしょう。「論理的」謎解きなんかないのだから。
ということで、多分本能でこの作品を避けていたのだろうなあ。そのまま従っていればよかったのに……と今更ながら後悔。いや、ほとんどの人が絶賛している(ですよね)作品を、こんな感情的なことで貶すのもどうかなあ、と思うんだけど、そういう読後感なのだから仕方がない。だまされたという爽快感のかけらもない作品だった。