- 作者: レオ・ブルース,小林晋
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1995/03
- メディア: 単行本
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ユーモアあふれる作風で人気を集めたレオ・ブルースが、考え抜かれたプロットとミスディレクションによって、驚くべきはなれわざを演じた本格ミステリの傑作。(粗筋紹介より引用)
1940年発表。1995年3月、翻訳刊行。
31冊の長編探偵小説を出版しながらも本国イギリスではほとんど評価されず、当然日本でも冷遇されてきた作者の代表作。シリーズ探偵であるウィリアム・ビーフ巡査部長は処女作『三人の名探偵のための事件』で初登場。この頃はサセックスの村の警察の巡査部長だった。『死体のない事件』でロンドン近郊のブラクサムという町を管轄するようになり、スコットランド・ヤードのスチュート警部と競い合うも見事事件を解決。『結末のない事件』で警察を退職し、私立探偵を開業するも、事件の解決に「失敗」する。第四作では依頼の途絶えたビーフの元に依頼が来てサーカス団と起居を共にする。そして第五作が本書である。以後、第八作までと短編集に登場する。レオ・ブルースには他にキャロラス・ディーンというパブリック・スクールの歴史教師が主人公のシリーズがある。
本書は自殺と断定された事件に疑問があると、押しかけ探偵を務めるビーフと、ワトソン役でありビーフの活躍を小説にしている探偵作家のライオネル・タウンゼンドの捜査が中心。といっても、ビーフは捜査よりもパブ巡りに明け暮れ、生徒たちにダーツを教えるといった状況でちっとも捜査が進まず、苛立つタウンゼンド。このあたりは名探偵とワトソン役の王道といった感があり、捜査が進んでいると口だけは言っても実際は全然進んでいないところは、名探偵の活動を皮肉っているという気もしないではない。
さて、本作の目玉は最後のビーフの解決部分であり、二つの事件が解決したかに見えたときに推理でひっくり返すところはなかなかの迫力。さしたる証拠もないまま想像で押し切っているため、あまり感心できない。また解説でも指摘されている通り、そもそも最初の事件で自殺として簡単に取り扱われたところ自体が不自然。そして最後に「驚くべきはなれわざ」な解決となるのだが、よほどのミステリファンでも、これがはなれわざとは思わないのではないか。はっきり言って、意外性に欠ける。作者の大見得に、読者は呆れるだけじゃないだろうか。
解説によると、ビーフ物でも本作は一、二を争う出来らしい。本当にそうだとしたら、私はビーフ物に手を出さない方がよさそうだ。