- 作者: 丹羽昌一
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1998/10
- メディア: 文庫
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1995年10月、文藝春秋より刊行。1998年10月、文庫化。
1914年のメキシコ革命時、元匪賊のパンチョ・ビリャが支配する北部チワワ州において、27歳の在シカゴ日本領事館外務書記生・灘健吉が、革命軍に参加しようとする血気盛んな者たちを押さえつつ、移民をカリフォルニア州まで移動させるべく奔走する。このエピソードは、馬場称徳という人物による実話とのこと。この話を題材に取った冒険小説物語であり、『悪魔の辞典』で有名な米国人作家アンブローズ・ビアスの失踪の謎が含まれ、集団移動の計画中に起きた連続殺人事件の謎解きまで盛り込まれている。
ということで粗筋や出だしは面白そうだったんだけれどね……。確かに面白いんだけれど、それは題材のみ。奔走したという部分だけで充分物語は作れただろうし、作者自身が中心に据えたかったと思われる連続殺人事件は、話の半分以上になってようやく発生するものであり、しかも蛇足以外の何ものでもない。結末の決闘シーンなんて、とってつけたようなものだ。作者がよいネタを基に、過去に読んだ面白かったシーンなどを何も考えずに盛り込んでできあがっただけの作品。題材がよいだけに勿体ない。まあ、この人でなかったら見つけられない題材だったかもしれないから、そのことだけには感謝すべきかも。
もうちょっと整理して、焦点を絞ってほしかった作品。個人的には、主人公のモデルである馬場称徳という人物にかかわる本を読んでみたくなった。
作者の経歴を見たら元外務省でキューバやチリなどの在外勤務経験があるということ。『素顔のキューバ革命』や長編ミステリ『チリ・クーデター殺人事件』の作者と同じ人なのかな。