平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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三津田信三『山魔の如き嗤うもの』(講談社文庫)

山魔の如き嗤うもの (講談社文庫)

山魔の如き嗤うもの (講談社文庫)

忌み山で続発する無気味な謎の現象、正体不明の山魔、奇っ怪な一軒家からの人間消失。刀城言耶に送られてきた原稿には、山村の風習初戸の"成人参り"で、恐るべき禁忌の地に迷い込んだ人物の怪異と恐怖の体験が綴られていた。「本格ミステリ・ベスト10」二〇〇九年版第一位に輝く「刀城言耶」シリーズ第四長編。(粗筋紹介より引用)

2008年4月、原書房より単行本書下ろし刊行。2011年5月、講談社文庫化。



ホラーと横溝世界を混合させたような作者の刀城言耶シリーズ。正直言って『凶鳥の如き忌むもの』がくどかったので、あまり読む気が起きなかったのだが、さすがに「本格ミステリ・ベスト10」第1位になったのだから読んでみようと買うだけ買って、今まで放置していた。

忌み山を侵し、山中の怪屋から朝食を食べている途中の一家が消失してしまうという事件に遭遇した郷木靖美の原稿から始まり、実際に奥戸(これでくまどと読む……読めない)で起きた、童歌通りの連続殺人事件。これでもかというぐらい不気味な雰囲気が漂い、これでもかというぐらい殺人事件が続けて起きる。

それなのに、読んでいてもどかしいのはなぜか。登場人物の名前が読みづらく、さらに多くてわかりにくいからか。刀城や警察も含め、あまりにも犯人に振り回されすぎているからか。何はともあれ、無駄に長く感じられて仕方がなかった。そのくせ、最後の解決は二転三転し、さらに本当にこれでいいのか、と思えるような強引なものだったので、本格ミステリならではのカタルシスを感じることもできず。

マリー・セレステ号を彷彿させる一家消失は確かに読者の興味を惹くし、童唄の見立て殺人も今時と思いつつ気になるものではあった。横溝の某作品のような趣向や、クイーンの某作品を思い起こさせる解決までの推理は悪くないはずなのに。結局、盛り込みすぎじゃないのかな、作者は。もう少しシンプルにできると思うのだが。

メインディッシュが出て来る前に、凝った前菜だけで腹いっぱいになってしまい、さらに肝心のメインディッシュが期待外れだったような作品。題材自体は悪くないので、もう少しわかりやすい料理の仕方があったと思う。