平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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坂東眞砂子『蟲』(角川ホラー文庫)

蟲 (角川ホラー文庫)

蟲 (角川ホラー文庫)

めぐみは平凡な主婦として穏やかな日々を送っていた。ある夜、夫が古い石の器を持って帰宅。富士川のほとりで拾ったというその器には「常世蟲」と彫られていた。この時から彼女は奇怪な夢や超常現象に悩まされ始める。そしてある日、夫の体から巨大な緑色の虫が這い出るのを目撃してしまった! 深まる謎は、古代の俗信仰「常世神」へと遡ってゆく……。日本人の心の底に眠る恐怖を鮮烈なイメージで呼び起こす秀作。高橋克彦氏曰く「私にとって忘れられない作品」。(粗筋紹介より引用)

1994年、第1回日本ホラー小説大賞佳作受賞。同年4月、ホラー文庫より刊行。



既に『死国』『狗神』で評判を得ていた作者であり、なぜ日本ホラー小説大賞に応募したのかがよくわからない。元々角川が書き下ろしで依頼していた作品だったが、日本ホラー小説大賞の応募作品のレベルが低かったため、編集者が目玉として応募させたという噂を聞いたことがあるが、これは阿久悠『殺人狂時代ユリエ』と似たような話であるため、多分嘘だろう。

古代の俗信仰「常世神」など日本の土着信仰を題材としたあたりは、初期の作者ならではのジャパネスクホラー作品である。ただ蟲が体内に入りこむという設定はありきたりであるから、そこにもう一つか二つアイディアを盛り込んでほしかったところ。前半における妊娠中の女性の心情は上手い描き方であったが、後半のヒステリックな部分はだらだらと間延びしてしまった感があり、恐怖よりも苛立ちの方が強い。夫の変化の正体も説明が不十分なことも、苛立つ原因の一つである。

結局主人公の独り相撲に近い形で終わっており、読んでいても面白くない。ただ小説技術はあるものだから、それなりに読ませることはできる作品に仕上がっていることが、最後の苛立ちに拍車をかけている。失敗作といっていいだろう。