平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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横関大『再会』(講談社 第56回江戸川乱歩賞受賞作)

再会

再会

息子の万引でスーパーの店主である佐久間秀之から30万円を強請られた岩本万季子は、別れた夫である清原圭介に相談する。圭介が秀之に金を渡したが、秀之はさらに金と万季子の身体を要求する。約束の時間、待ち合わせ場所で圭介が見たのは、秀之の射殺死体だった。そしてその拳銃は、23年前、圭介の父親である和男巡査が殉職したとき紛失したものであった。動揺する飛名淳一刑事。その拳銃は、秀之の腹違いの弟である佐久間直人、そして万季子、圭介、淳一という仲の良かった幼なじみ4人が23年前、校庭に埋めたはずのものだった。

2010年、第56回江戸川乱歩賞受賞作。投稿時タイトル『再会のタイムカプセル』を改題、加筆修正。



作者は8年連続で乱歩賞に応募、さらに過去3回最終選考に残ったという。東野圭吾は選評で「背伸びすることをやめ、「乱歩賞の傾向と対策」のようなものから解放されたのが勝因」と語っているが、確かに過去のお勉強ミステリと比較すると、等身大の作品といえる。その分物足りなさ、地味さを感じる人がいるかも知れないが、ストーリー自体はそれなりに練られているので、読んでいて退屈さを感じることはない。

4人の視点が次々に切り替わりながら物語が進むのだが、全員何かを隠しているような語り口であるため、読んでいて歯がゆさを感じる。それが苛立ちに変わる前に物語が進むため、怒りを感じることはなかったが。

トリック云々よりも、幼なじみ4人の交錯する感情と運命を中心に描いた作品といえるだろうが、最後の突拍子もない展開には驚かされた。トリックとして実際に可能かどうかはちょっと疑問なのだが、着眼点自体は悪くないと思える。

個人的には悪くない作品だと思うのだが、文章にしろストーリー展開にしろ手慣れた感が透けて見え、新人らしいフレッシュさに欠けている点があるのは否めない。逆に言うと、60点の作品は量産できそうなタイプだ。少なくとも、過去に応募した作品を書き直せば、当分は食っていけるんじゃないか。ホームランを飛ばすことができるかどうかは、本人次第だろう。