- 作者: 遠藤武文
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/08/07
- メディア: 単行本
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2009年、第55回江戸川乱歩賞受賞作。投稿時タイトル『三十九条の過失』を改題、加筆。
江戸川乱歩賞は全て読む。ということで、評判があまりよくないにもかかわらず読んだけれど、これは何とも形容しがたい作品。下手な粗筋は書かない方がいいかな、話が二転三転するから。交通事故の被害者、加害者を取扱い、交通刑務所の描写もそれなりに書かれている。他にも報道被害など複数の社会問題を取り込んでいる。そういう意味では社会派という言葉に間違いはない。それでいて、確かに密室殺人などのトリックも使われている。選評で恩田陸、天童荒太、東野圭吾が声をそろえた「志の高さ」って、そういう風に様々な要素を盛り込み、ハードルを高く設定して挑んだところなんだろうか。別に「志の高さ」を評価するのはいいけれど、そのハードルに出来が全く届かない作品を選ぶのはどうかと思う。
帯には東野圭吾による「乱歩賞史上最高のトリックだ」との惹句が書かれているが、選評ではそのようなことは一言も書かれていない。授賞式でそのようなことでも(サービスで)言ったのか、編集部による独断か。「あなたは絶対に鉄壁のトリックを見破れない」とか書いているけれど、密室トリックそのものについては、うーん、どうだろう。見破れないかもしれないけれど、それは穴が大きすぎるから誰もこんな推理をしない、というのが本当のところじゃないかな。僥倖に頼りすぎだよ、あのトリックは。強引すぎるし。
それでもあのトリックだけならまだ許せたかもしれないが、問題は他にあり。とにかく登場人物が多すぎ、視点の切り替えが多すぎ、話の核がぶれすぎ。いったい誰が主人公? この事件の真相って結局何だったの? この登場人物は結局なぜ殺されたの? この人物は最後どうなるの? 刑務所で殺す理由ってあったの? うーん、一応書いているんだろうが、説明不足なところ多し。他にも色々あったような気がするが、何でもかんでも詰め込んで結局消化不良を起こしている。登場人物は、半分に減らすことができたんじゃないかな。
文章も読みづらいし、人物描写もさっぱりで描き分けができていない。今どの場面なのかもわかりにくい。もっとも題材だけ、というわけじゃなくプロットは悪くないから、あとは小説を書く力が延びれば結構化けるかも。
どうでもいいが選考委員の大沢在昌よ。「近年の乱歩賞では珍しい、本格推理の力作」なんて書いてしまうと、3年前の『東京ダモイ』が可哀想だろ。