平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森雅裕『画狂人ラプソディ』(カドカワノベルズ)

芸大教授、七裂(ななさき)鉄人(てつと)が研究室で殺害され、江戸の絵師、画狂人・北斎に関する未発表の新資料が盗まれた。芸大生二人組、周一と哲平は、教授から託された資料のコピーから、北斎の「富岳三十六景」中に重大な秘密が隠されていることを知った。徳川幕府が血眼で捜し求めた結城の埋蔵金、その隠し場所が「三十六景」中に示されているらしいのだ。二人が北斎の謎に迫り始めた頃、七裂の娘・奈都子が失踪した。そして第二の殺人が…。第五回横溝正史賞佳作入選作。(粗筋紹介より引用)

1985年、第5回横溝正史賞佳作受賞。同年8月、刊行。



1985年に江戸川乱歩賞を受賞する森雅裕のデビュー作。佳作止まりで出版予定はなかったが、乱歩賞を受賞したから先んじて出版したという経緯があったと記憶している。

芸大教授殺害、北斎未発表資料盗難、結城家埋蔵金、教授の娘失踪、楽器鑑定書偽造、業者との癒着に賄賂、暗号解読……おまけにちょっと恋愛混じりの青春物語。これでもかというぐらい盛り込まれているのだが、そのお陰で印象が散漫になっていることは否めない。せっかくの北斎というおいしい題材が最後の方では単なる刺身のツマ扱いになっているのは非常に残念。殺害現場が水道垂れ流し状態というアリバイトリックも拍子抜けだったし、暗号の方も今一つ。力の入れどころを間違ったとしか思えない。作者がいう通り、「いささか“意あまって力足りず”の感がある」作品である。

主人公の斜に構えた態度とかは、作者を投影しているのだろうなあ、という気がする。ちょっと個性的なヒロインももう少し扱いようがあったのにと思ってしまうし、後味の悪さはどうにかならなかったのだろうか。

江戸時代の絵師を使うという点で『写楽殺人事件』と被ってしまったところはあり、それも評価を落とした結果になったようだが、それを抜きにしても佳作止まりは仕方のないところだったと思う。典型的な、ネタを積み込みすぎて失敗した作品。