平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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光原百合『イオニアの風』(中央公論新社)

イオニアの風

イオニアの風

偶然の悪戯で<意志>を得た人間たちは、長きにわたり互いに争い血を流し続けていた。時に罰し、時に救い、人間の歴史に介入してきたオリュンポスの神々は、ついに、人間に三つの試練を与え自らの道を選ばせることを決める。運命が用意した試練は、トロイア戦争をめぐるふたつ。そして、強大な魔物をめぐる一つ――。人間の未来を招くため、最後にして最大の難関に挑む、英雄の子テレマコスと美しき吟遊詩人ナウシカアの運命は!? 神々の時代から人間の時代へと移りゆく世界を舞台に描く、壮大な愛と冒険の物語。(帯より引用)

2009年、書き下ろし。



作者が長年暖めており、毎年のように完成させたいと言っていた、ギリシア神話を題材とした長編ファンタジー。登場人物は当然ギリシア神話から採られているが、内容は作者が考え出した物語であり、実在するギリシア神話とはまったく関係がない。個人的には舞台にも人物にも内容にもオリジナルが感じられない、ギリシア神話の二次創作だな、というイメージである。プラトニックラブやヒロイックファンタジーが好きな女の子の描くファンタジー、とでも言えばよいだろうか。このヒーローと、このヒロインを結びつけたら素敵だな、というロマンティックな思考しか見えてこない。主人公にオデュッセウスと結ばれないナウシカアと、オデュッセウスの息子テレマコスを選ぶあたりがいかにもという気がする。

三つの試練の選ばれ方は内容の困難さが違いすぎて、なぜこれが同列になるのかさっぱりわからないし、神々は介入してはいけない決まりなのにとことん介入するなどルールの線引きの曖昧さが不明であることなど、どうも設定に甘さが見られるのは気になった。いっそのこと、テレマコスナウシカアの話に絞った方がよかったんじゃないのかね。途中から登場するから、今一つ感情移入しにくいし。もっとも「全能の神々」がこんなルールで運命を決めさせること自体がおかしいと思うのだが、まあそれは気にしないこととしよう。

はっきり言ってしまうと、ギリシア神話をアレンジするなら、和田慎二ピグマリオ』ぐらい徹底的にやってほしい。作品規模の割に、甘さしか感じなかった作品。