平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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結城昌治『白昼堂々』(光文社文庫 結城昌治コレクション)

白昼堂々 (光文社文庫)

白昼堂々 (光文社文庫)

筑豊の廃坑の村。スリを生業とする人々の住むその村に、デパートの保安係をしている昔の仲間・銀三が現れて、もっと安全で割のいい仕事――デパートの集団万引を勧めた。チームワークと巧妙な手口で、窃盗団の稼ぎは上々、前途は洋々と思われたが、ベテラン刑事も黙ってはいない。陽気な泥棒集団の破天荒な活躍を軽妙諧謔の筆致で描いた、著者会心の悪漢小説。(粗筋紹介より引用)

週刊朝日」1965年6月4日号〜12月31日号連載。1966年2月、朝日新聞社より刊行。その後報知新聞社、角川文庫、朝日新聞社版『結城昌治作品集』第4巻、講談社大衆文学館に収録された。



これで4回目か5回目の再読。

本格ミステリ、サスペンス、ハードボイルド、スパイ小説など様々なジャンルを書いてきた作者による、悪漢小説の傑作。犯罪者を主人公に置く、真っ向から犯罪ものに取り込んだ小説だが、取り扱っているのがスリであるということと、作者の持ち味の一つであるユーモアが、犯罪小説にありがちな後味の悪さをうち消している。被害者が個人ではなく、デパートという大きな組織であることも、悪漢小説でありながらコメディとしても成功した大きな一因だろう。

作者は1959年に逮捕された万引団をヒントにした、あくまで創作であると書いている。ところが連載終了後、本当に北九州から上京した万引団が逮捕されたから、一部でモデルだったとされるなど色々な騒動があったらしい。まさに、事実は小説より奇なりである。

作品が発表されたのは今から40年以上も前だが、今読んでも十分に面白い。万引団を構成していた彼らのその後がどうなったか気になるところだが、続きを読むことはすでに叶わない夢である。