平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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加賀乙彦『犯罪』(河出文庫)

暗鬱な山里の寒村で、風光明媚な海辺の街で、因習ね深い農家の片隅で、そして都会の真ん中で、ある日突然、人々の心に殺意が芽生える――平凡な日常生活に隠された現代人の魂の惨劇が、様ざまな人間模様を通して露わにされて行く……

加賀乙彦は、犯罪による人間の追求という新しい領域の最前衛に立つ作家である。その最新の成果がここにある」と、秋山馨氏に絶賛された迫真の犯罪小説集(粗筋紹介より引用)

精神科医、犯罪学者として犯罪者と付き合ってきた作者の筆による、実際に起きた犯罪をもとに書かれた短編小説集。「大狐」「池」「冬の海」「暗い雨」「漁師卯吉の一生」「ある歌人の遺書」「嘔気」「十五歳の日記」を収録。



加賀乙彦といえば、精神科医・犯罪学者小木貞孝としても有名。代表作『宣告』はバー・メッカ殺人事件の犯人で、死刑囚となったSについて書いているのは有名。

いずれも実在の事件をもとに書かれているのだが、舞台がかなり昔ということもあり、また小説仕立てで書かれているから、本当に実在だったかどうか疑問に思ってしまうぐらい、どこか遠い出来事のようにしか思えない。そのためかどうかはわからないが、ノンフィクションを読むほど犯罪者の心理を突き詰めているようには思えない。普通に犯罪小説として読むには面白かったけれど。

嫌だなあ、と思ったのは「池」かな。自分の腹を痛めて産んで、そして育てた小さな子供を、池に棄てて殺してしまうという心情は、読んでも納得いくものではなかった。こればっかりは、自分で産むことができない男ゆえの感想かもしれない。

犯罪者の心理というなら、小説にするよりも、聞いた記録をそのまま書いた方がより伝わるんじゃないかと思ってしまう。読みやすくするというのなら小説にした方がよいというのはわかるが。