平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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大阪圭吉『死の快走船』(創元推理文庫)

死の快走船 (創元推理文庫)

死の快走船 (創元推理文庫)

  • 作者:大阪 圭吉
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫
 

 岬の端に立つ白堊館の主人キャプテン深谷は、愛用のヨットで脱走に仕掛けた翌朝、無残な死体となって発見された……堂々たる本格中篇「死の快走船」をはじめ、猟奇的エロティシズムを湛えた犯罪奇譚「水族館異変」、東京駅のホームを舞台に三の字づくしの謎に隠された意外な犯罪をあばく「三の字旅行会」、アパートの謎の住人“香水夫人”の正体とは? ユーモア探偵小説「愛情盗難」ほか、防諜探偵横川禎介物、弓太郎捕物帖など、戦前随一の本格派、大阪圭吉の知られざる多彩な魅力を網羅した傑作選。(粗筋紹介より引用)
 中編「死の快走船」、短編「なこうど名探偵」「塑像」「人喰い風呂」「水族館異変」「求婚広告」「三の字旅行会」「愛情盗難」「正札騒動」「告知板の女」「香水紳士」「空中の散歩者」「氷河婆さん」「夏芝居四谷怪談」「ちくてん奇談」に随筆・アンケート回答「小栗さんの印象など」「犯罪時代と探偵小説」「鱒を吊る探偵」「巻末に」「怒れる山(日立鉱山錬成行)」「アンケート回答」を収録。2020年8月刊行。

 

 創元推理文庫からはかつて『とむらい機関車』『銀座幽霊』が出ていたが、それに続く第三作品集。大阪圭吉は昔から「大阪圭吉研究」という研究書誌が出ているし、いくつかの出版社からも著書は出ているので、発表作品数から比較すると全貌がわかりやすい作家になるのだろうか。本作品集は、本格探偵小説もあるが、戦時体制下で本格が書きずらくなったために書かれたユーモア小説、防諜小説、捕物帳も収録されている。
 ただ、作者自身も乗り気じゃなかったんだろうなあ、という気がしなくもない。ユーモア物、防諜小説、捕物帳についていえば、ページの制限も大きな原因ともいえるだろうが、本当に小品というレベルで終わっている。
 中編「死の快走船」は力作。初期の作品「白鮫号の殺人事件」を改題改稿加筆。これが読めたからよしとするか。やはり作者の長編本格探偵小説を読んでみたかった。