- 作者: 船戸与一
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1997/11/20
- メディア: 文庫
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1990年7月、集英社より刊行。
船戸といえば国際謀略小説の第一人者であるが、たまにこのようなハードボイルド作品を描いてくれる。船戸のこのタイプの作品を読むのは、デビュー作『夜のオデッセイア』以来である。
主人公のおれは、ラッキーと呼ばれる日本人である。しかし彼の運は24歳で使い果たしていた。19歳で1億円近い遺産が転がり込み、冗談半分で買った株がさらに値上がりした。放埒な生活を続けながらも、博打などで資産は4億円に膨らんだ。その金を持って、アメリカでステーキハウスを買い、経営に乗り出したのは24歳の時だった。しかし金の持ち逃げ、火災、事故などで金を全て失った。それからはなにをやってもうまくいかない。だから周りは揶揄と皮肉をこめてラッキーと呼ぶ。
本書の前半は、ムーニーを主人公としたボクシング小説である。裏にきな臭い動きがあり、関係者が不審な死を向かえるなどの事件が起きるが、メインはあくまでボクシングの試合である。リングにおける公開処刑ショーに絶望的な闘いを挑むムーニー。この闘いは観客ばかりではなく、読者をも感動の渦に巻き込む。
ところが後半は逃走劇、そして銃撃戦となる。前半の、ムーニーの必死の闘いぶりとは全く違う流れだ。一冊の小説で様々な要素を盛り込むというのはサービス精神旺盛と捉えるべきなんだろうが、読み終わってしまえば散漫なイメージしか浮かんでこない。一つ一つのシーンはいいのに、勿体ない話である。
それと、個人的に残念と思うことは、やはり主人公が情けないところ。もうちょっと活躍シーンを入れてほしかった。
船戸のこういう話は好きなんだけど、やはり芯が一本通った話にするべきではなかったか。各要素が凄くいいのに、集めてみたら融合しきれなかった作品。