平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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船戸与一『炎流れる彼方』(集英社文庫)

炎 流れる彼方 (集英社文庫)

炎 流れる彼方 (集英社文庫)

アメリカで運を使い果たしたおれを拾ってくれたのは、しけた中年ボクサー・ムーニー。彼に突然ラスベガスでの試合の話が持ち込まれる。なぜ? 相手はキラーと呼ばれる29戦全KO勝ちの若いハード・パンチャー。この「合法的殺人」を企む黒幕は? 男を賭けたリング。驚くべき真相が…。銃撃と流血。そしてロッキー山中で壮絶な最後の聖戦が繰り広げられる…。男たちの魂を歌うハードボイルド巨編。(粗筋紹介より引用)

1990年7月、集英社より刊行。



船戸といえば国際謀略小説の第一人者であるが、たまにこのようなハードボイルド作品を描いてくれる。船戸のこのタイプの作品を読むのは、デビュー作『夜のオデッセイア』以来である。

主人公のおれは、ラッキーと呼ばれる日本人である。しかし彼の運は24歳で使い果たしていた。19歳で1億円近い遺産が転がり込み、冗談半分で買った株がさらに値上がりした。放埒な生活を続けながらも、博打などで資産は4億円に膨らんだ。その金を持って、アメリカでステーキハウスを買い、経営に乗り出したのは24歳の時だった。しかし金の持ち逃げ、火災、事故などで金を全て失った。それからはなにをやってもうまくいかない。だから周りは揶揄と皮肉をこめてラッキーと呼ぶ。

本書の前半は、ムーニーを主人公としたボクシング小説である。裏にきな臭い動きがあり、関係者が不審な死を向かえるなどの事件が起きるが、メインはあくまでボクシングの試合である。リングにおける公開処刑ショーに絶望的な闘いを挑むムーニー。この闘いは観客ばかりではなく、読者をも感動の渦に巻き込む。

ところが後半は逃走劇、そして銃撃戦となる。前半の、ムーニーの必死の闘いぶりとは全く違う流れだ。一冊の小説で様々な要素を盛り込むというのはサービス精神旺盛と捉えるべきなんだろうが、読み終わってしまえば散漫なイメージしか浮かんでこない。一つ一つのシーンはいいのに、勿体ない話である。

それと、個人的に残念と思うことは、やはり主人公が情けないところ。もうちょっと活躍シーンを入れてほしかった。

船戸のこういう話は好きなんだけど、やはり芯が一本通った話にするべきではなかったか。各要素が凄くいいのに、集めてみたら融合しきれなかった作品。