- 作者: 月村了衛
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/04/08
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
2013年11月、講談社より刊行。2015年、第17回大藪春彦賞受賞。2016年4月、文春文庫化。
月村了衛は初読。「機龍警察」シリーズなど前から気になっていたのだが、なかなか手に取る機会がなかった。ようやく読むことができたが、激しく後悔。なぜもっと早く読まなかったのだろう。
舞台は嘉永六年(1853年)の江戸。主人公は廻船問屋・三多加屋の番頭、郎次。裏金融を牛耳る新規札差・祝屋儀平の子飼の配下であり、抜荷を取り仕切っている。裏では儀平に逆らう者たちを暗殺する殺し屋。儀平たちには、名前を明かさぬその筋の者たちを手配して暗殺していることになっているが、実際は自ら一人で殺しを請け負っている。手にするのは、かつて異人から譲り受けた六連発回転式のコルトM1851ネイビー。
江戸時代を舞台としながらのハードボイルド。昼は真面目な顔、夜は抜け荷を扱いつつ、実は主人にも偽って自ら殺しに手を染めている。なんなんですか、この大藪春彦作品の主人公みたいな設定は。しかも、土産物を扱う店の父親が騙されて証文に判を押して店を乗っ取られ、一家心中で唯一生き残ったという過去を持っているという。もう設定だけでドキドキものである。
しかも主人公の郎次が実にストイック。己の生き方に忠実で、目標に向かって一切の妥協を許さない。それでも世間に男ぶりを褒められて気分が良くなるなど、人間臭いところが残っているのも見逃せない。一つの過ちからどんどん転げ落ち、周囲に裏切られて逆襲する姿もドキドキする。その時点で、読者は郎次に感情移入する。実は裸の王様状態だった郎次に同情し、逆襲する郎次に喝采を上げる。
次の抜け荷が来るまで、コルトの弾丸数がどんどん減っていく描写も、破滅までのカウントダウンを示しているようで、緊迫感を増す効果を上げている。最後の銃撃戦、そしてどんどん死んでいくカタストロフィが実にいい。最後の最後で明かされる謎もまた、悲劇を盛り上げる効果を産んでいる。
大藪賞の選考では青山文平『鬼はもとより』が一つ図抜けていて、同時受賞には馳星周が強く推したとのこと。確かに馳なら本作品を強く推すだろう。ただそれを除いても、これほどの作品が大藪賞を取れないことがおかしい。これは時代小説ノワールの傑作。読んでいて本当に痺れた。