平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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生島治郎『死者だけが血を流す/淋しがりやのキング』(創元推理文庫 日本ハードボイルド全集第1巻 )

 第二次世界大戦後、独自に発展していった日本のハードボイルド/私立探偵小説。その歴史の草創期に、大きな足跡を残した作家たちの作品を全七巻に集成する。第一巻は生島治郎の巻。地方都市の腐敗した選挙戦を冷徹に描ききる長編『死者だけが血を流す』に加え、港町・横浜にうごめく人々の悲哀を海のブローカー久須見健三の視点で切り取った「チャイナタウン・ブルース」「さびしがりやのキング」、世にあぶれた者を主役に人生の刹那を浮かび上がらせる「血が足りない」「夜も昼も」など珠玉の六短編を収録。(粗筋紹介より引用)
 2021年4月、刊行。

 

 作品ごとの感想は別項に書いたので、ここでは全体的な印象など。
 なぜ生島治郎が第1巻なんだろう。高城高は創元から全集が出ているから別(せっかくだから復刊しようよ)としても、大藪春彦河野典生が先にデビューしているのだから、そちらを先に選ぶのが筋なんじゃないだろうか。それに三好徹は入らないんだね。天使シリーズは十分ハードボイルド味があると思うけれど。
 解説を読むと生島治郎は、ハメット、チャンドラーがハードボイルドであり、スピレーンはタフガイ・ストーリーと断じていたそうだ。河野典生なんかも「クライム・ノベル」としていたとのことだから、ハードボイルドの形によほどの固定概念があったのだろう。その割には、ハードボイルドではない作品も収録されているのはどうなんだろうか。「日本ハードボイルド全集」の趣旨から考えると、生島治郎が考えたハードボイルド作品を選ぶべきじゃなかったんだろうかと思ってしまう。そういう不満はある。不勉強で申し訳ないのだが、『追いつめる』の志田司郎が出てくる短編はないのだろうか。
 『死者だけが血を流す』は著者の第二長編。ノンシリーズ物を選んでくれてうれしい。「チャイナタウン・ブルース」「淋しがりやのキング」は、作者のデビュー長編『傷痕の街』に出てくる久須見健三が主人公。久須見物の短編があるとは知らなかった。特に「淋しがりやのキング」は傑作。「甘い汁」はユーモア調。「血が足りない」はアホなチンピラがアホなことをやった、というだけの話にしか思えないし、登場人物のほとんどに嫌悪感しかないのだが、作者は自信作だったとのこと。「夜も昼も」もハードボイルドじゃないよな。面白いけれど。「浪漫渡世」は作者の編集者時代をほうふつさせる短編。
 全作読んでみると、ハードボイルドの全集なのに、生島治郎の多彩な一面を見せた作品集になっている。かなりの皮肉だが。