平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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夏樹静子『白愁のとき』(角川文庫)

白愁のとき (角川文庫)

白愁のとき (角川文庫)

アルツハイマー病。精神余命1年。働き盛りの造園設計家・恵門潤一郎を突然襲ったそれは、自分が病気であるという意識さえ彼から奪いながら、ゆるやかに、しかし確実に、心と体を冒してゆく。生への執着と死への誘惑の間で揺れ動く男の絶望と救済を、精妙で叙情あふれる筆致で描いて、新境地を拓く長編小説。(粗筋紹介より引用)

1992年、角川書店より出版された作品の文庫化。



アルツハイマー病といえばロス・マクドナルドレーガン元大統領の名前が浮かぶ程度で、あとはせいぜいゆっくり惚けていくというイメージしかなかった。本書を読み、アルツハイマー病の恐ろしさについて、考えさせられる。主人公が生と死の間で揺れ動く様や、徐々に病魔が進行していることに気付く恐怖などの描写はさすが。若い女性とのロマンスも、男としてはわかります。妻や子供の方から見たら勝手な行動なんだが。

女性の家族にまつわる疑惑部分あたりにミステリっぽい仕掛けがほんのちょっと用意されているが、そこを除けば作者のきめ細やかな描写が際だつ普通小説。アルツハイマー病という病気そのものではなく、病気にまつわる行動原理をわかりやすく知るには、ちょうどいい本ではないかと思う。わかりやすい描写が、病気を知る人から見たらかえって軽いイメージを持ってしまうのではないかと危惧してしまうが。