平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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松村比呂美『女たちの殺意』(新風舎文庫)

女たちの殺意 (新風舎文庫)

女たちの殺意 (新風舎文庫)

夫の姉、久里子がまた家に転がり込んできた。無神経でルーズな九里子の行動が、時子には目障りで仕方がない。解き子のストレスは、いつしか殺意に変わっていくのだが。オール読物推理小説新人賞最終候補作、「暖かい殺意」。

いつも男を連れ込み、部屋の掃除もせず、酒ばかり飲んでいるエリコ。整理整頓が大好きで、いつもエリコの部屋を掃除し、食事を作ってくれる節子。全く接点が見当たらない二人の大学生。「茶箱―渇いた殺意」。

異常なほど潔癖症で、押し付けがましいほど世話をやく育美。ある日、育美の夫である聡が失踪した。真面目に仕事をし、ギャンブルなど一切やらず、女性にもてるとはとても思えない容姿の聡は、500万円の定期預金を解約してどこへ行ったのか。気になる姉は定期的に育美のところを訪れるが、育美が作って渡してくれる卵の殻で作った粉末がどうしても気になる。オール読物推理小説新人賞最終候補作、「カルシウム―白い殺意」。

すぐにアレルギーにかかってしまう咲子。異物に反応しすぎる体質で、体に入る精子すらも殺してしまう。結婚前はこんなことはなかったのに、なぜか。「アレルギー―溢れ出る殺意」。
美智子はホームレスの男性を探していた。彼女は同窓会に出るため、どうしても適当な男を探し出す必要があった。「どうしても―ふりむいた殺意」。

第4回新風舎文庫大賞。



「暖かい殺意」:やっかいな義姉に殺意を覚え、ストレスがたまってとうとう実行する……というありきたりな設定ではあるが、登場人物の心理描写がよく描かれていて、これはなかなかやるなと思っていたら、最後のせりふにやられました。どんでん返しとはちょっと違うが、これはうまい終わり方。余韻が残ります。

「茶箱」:これはさすがにパターンが読めてしまった。なかなか描けているとは思うが、もうワンクッション、何かあったほうがよかったか。

「カルシウム」:こういうタイプの女性、いるね。うん、わかる、わかるというか。夫の行動も納得できるし。男女ともに、登場人物の心理描写が結構巧み。ただ、最後のほうはちょっとひねりすぎたか。かえってややこしくなった感がある。

「アレルギー」:これは何というか。ちょっとピンと来なかった。アレルギーという症状と夫婦間をうまくからめている気はするが、やや唐突な終わり方というか。もうワンステップあってもよかったのでは。

「どうしても」:主人公の感情は、女性でなければわからないもの。ただ描写がうまいので、納得させられます。最後の落ちもうまく決まっている。

女性の視点から見たサスペンス作品は数多くあるが、恋愛感情の絡まないサスペンスは珍しいのでは。読んでいてわかるわかる、と思わせておいて、最後にぞくっとさせると感触が薄気味悪い。描き方がリアルなので、大受けしにくいかもしれないが、一つヒットを打てば定期的な読者がつくような作風である。次作(できれば長編)を読んでみたい。