目に入った物をかぞえずにいられない計算症の青年や、隣人のゴミに異常な関心を持つ男など、現代社会が生み出しつづけるアブナイ性癖の人達。その密かな執着がいつしか妄念に変わる時、事件は起きる…。日本推理作家協会賞の表題作はじめ、時代を見通す作者の眼力が冴える新犯罪ミステリ五作品を収録。(粗筋紹介より引用)
1996年11月、文藝春秋より単行本刊行。2000年4月、文庫化。
大阪の大手スーパーに、バレンタインのチョコに毒物を混入させるという脅迫状が届く。脅迫状の指紋から浮かび上がった容疑者は、メッキ工作所の職人として働く青年・福島浩一だった。福島は、目に入った物を数えずにいられない計算症であった。1996年、第49回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)受賞「カウント・プラン」。
堤町の住職が、葬儀屋の男の頭をゴルフクラブで殴って重傷を負わせたとして逮捕された。本堂には百万円の束が二つ、さらに被害者の男も束を二つ持っていた。取り調べに対し、住職は正当防衛を主張した。「黒い白髪」。
カラフルな色の者に執着するティッシュ配りの男は、ペットショップで派手な色の熱帯魚を盗み出した。そして次に狙ったのは、パチンコ屋の休憩所に居た4歳の女の子だった。「オーバー・ザ・レインボー」。
隣の部屋に駆け込んだ田代恭子は、血で真っ赤だった。駆け付けた警察は、恭子の親友である下川路由紀が刺されて死んでいるのを発見する。しかし凶器の出刃包丁は由紀がうろこ落としと一緒に当日購入した物であり、恭子は正当防衛を主張した。「うろこ落とし」。
ラブホテルでホステスの59歳の新井芳江が殺害された。芳江はスナックに来る客を誘って売春をしていた。芳江がすむアパートの二階に住む今村は、近所に住む女性のゴミを漁って持ち帰るのが趣味だった。「鑑」。
大阪を舞台にした、ノンシリーズの短編集。警察側の動きが主体であるが、一部短編では事件の関係者側の動きも差し込まれている。さらに現代社会に潜む病巣を抉るような題材を扱っている。
黒川の作品では、刑事同士の掛け合いが楽しい大阪府警シリーズがあるが、本作ではそこまでの楽しさはない。どちらかといえば愚痴の応酬みたいな感じであり、ユーモアはあまり感じられない。そのせいもあってか、どことなく暗い感じの作品馬k理である。
一見簡単そうに見えて、実は……というタイプの作品が多いが、そもそも短編ということと、淡々と捜査が進んでしまうためか、結末まで来てもそれほどのサプライズ感はない。一番のサプライズは表題作の「カウント・プラン」であるが、個人的にはそのサプライズが悪い方に働いた作品に見える。何とも言えない呆気なさが、逆に後味のあまり良く無い仕上がりになっているのだ。
ただ、隙のない構成と読者の興味を削ぐことのないストーリーは、プロの技だなとは思える短編集ではある。ただ、作者が持つアクの強さは感じられなかった。