平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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土屋隆夫『粋理学入門/判事よ自らを裁け』(創元推理文庫 土屋隆夫推理小説集成第7巻)

 昭和二十四年十二月、「宝石」誌の募集に応募し、みごと第一席となった「「罪ふかき死」の構図」以降、著者は長編執筆のかたわら、短編の創作にも並々ならぬ情熱を傾けてきた。その百編を超す作品の中から、代表的な中短編を収める。「離婚学入門」をはじめ、推理小説ファンに贈る「密室学入門」、川端康成の死を扱った「報道学入門」等、軽妙な筆致でつづる連作集『粋理学入門』を軸に、「死者は訴えない」、「奇妙な再会」、「判事よ自らを裁け」等、バラエティに富んだ土屋作品の精華を集大成してお届けする。(粗筋紹介より引用)

 目次では『「罪ふかき死」の構図』『粋理学入門』『判事よ自らを裁け』の3つに分かれている。

『「罪ふかき死」の構図』には初期短編「「罪ふかき死」の構図」「青い帽子の物語」「推理の花道」の3編を収録。

『粋理学入門』は「離婚学入門」「経営学入門―トリック社興亡史」「軽罪学入門―くさい男」「再婚学入門―天女」「密室学入門―最後の密室」「粋理学入門―妻盗人」「報道学入門―川端康成氏の遺書」「媚薬学入門―夜の魔術師」の8編による短編集で、初刊は桃源社ポピュラーブックスより昭和37年9月10日に刊行されている。

『判事よ自らを裁け』は昭和29年~35年に発表された「ささやかな復讐」「狂った季節」「愛する」「死神」「殺人のお知らせ」「傷だらけの街」「死者は訴えない」「小さな鬼たち」「三通の遺書」「二枚の百円札」「暗い部屋」「奇妙な再会」「判事よ自らを裁け」の13編が収録されている。
 土屋隆夫というと本格推理小説のイメージが強いが、短編はバラエティに富んでいる。本短編集では、本格推理小説は「「罪ふかき死」の構図」ぐらいなもので、あとは心理サスペンスやユーモアミステリが多い。作者のイメージが変わってしまう人がいるかもしれない。
 『粋理学入門』はブラックユーモアな作品が多い短編集だが、できれば全作品、このトーンでまとめてほしかったところ。一編だけで読むと、その面白さは半減してしまう。
 個人的なお薦めは、「愛する」「奇妙な再会」である。「愛する」は事件の裏側にある心理的証拠が素晴らしい。「奇妙な再会」はテレビ番組出演から意外な方向へ進むストーリーが恐ろしい。

 土屋隆夫の短編集は角川文庫で結構読んでいたはずなのだが、一部を除いてあまり覚えていない。うーん、長編ほど、印象の強い作品が少ないことが理由かな。
 土屋隆夫推理小説集成全8巻のうち、読み終わったのはこれで6冊目。厚すぎて、なかなか手に取る気力がわかない。長編は傑作が多いからいいんだけどね、中短編集となるとちょっと躊躇してしまう。とはいえせっかく購入したのだから、全部読みたいとは思っているのだが。