平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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泡坂妻夫『恋路吟行』(集英社)

恋路吟行

恋路吟行

奇術サークルを主催する作家青瀬のところへ、作品に出てくる奇術師ジャジャマネクの名前を使わせてほしいときた若者のその後。「黒の通信」。

奇術サークルを主催する作家青瀬は友人たちとともにスイスの奇術大会へ出かけたが、そこで奇妙な仮面の話を聞いた。「仮面の恋」。

高男は妻の美佐や子供の友仁とともにフランスから5年ぶりに日本へ帰国することになった。その飛行機に乗り合わせた怪しい客たち。「怪しい乗客簿」。

兄嫁に横恋慕した私は思いきって誘ったところ、思いもかけず関係を結ぶことになった。ずるずると続く関係の結末は。「火遊び」。

俳句の会による2泊3日の旅行で能登に来ためぐみ。そんな彼女に、妻との不仲に悩む景一が近づいてきた。不倫の関係に傾きつつあるめぐみ。「恋路吟行」。

酒に酔って帰ってきた夜。男は雪に残っている足跡から妻が浮気をしていることを知った。相手と思われるのは、自分の下で働いている男3人のうちの誰か。「藤棚」。

明治時代から続いていた旅館がホテルとして改装されることになった。これを機に引退するつもりであった女将は過去を思い出す。「勿忘草」。

安政の大地震時、大きな荒物屋の娘であった5歳のるいは、栄吉という9歳の少年にさらわれると同時に、二人は前世が恋人同士であったと告白されると同時に求婚された。栄吉のために、るいの人生は大きく変化する。「るいの恋人」。

展覧会に飾られた鏡子の胡蝶蘭の絵。しかし2本の胡蝶蘭はいずれも同じ処の花弁が散っていた。この絵の意味するところは。「雪帽子」。

縫紋屋の男が語る、戦中と戦後に接した母と継母に纏わる話。「子持菱」。

1989年〜1993年、『週刊小説』『小説すばる』に発表された短編小説をまとめ、1993年10月に刊行された短編集。



泡坂妻夫といえば本格ミステリの名手であったと同時に恋愛小説の名手でもあったが、本短編集は恋愛小説にちょっとミステリっぽい味付けをしたものが中心に集められている。職人芸といえば聞こえがいいが、逆を言うと思いついた技巧で作品を書いているという印象。巧くできていると思うし、読んでいる分には面白いのだが、心に残る作品はなかった。

あえて挙げるなら、江戸末期から明治時代にかけての前世も絡めた運命を描いた「るいの恋人」や、男の告白が意外な方向へと進みだす表題作「恋路吟行」が本作品中のベストか。