平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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芦辺拓『三百年の謎匣』(角川文庫)

 億万長者の老人が森江法律事務所へ遺言書作成の相談に訪れた帰途、密室状態の袋小路で殺害された。遺されたのは世界に一冊の奇書と莫大な遺産。森江春策がその本をひもとくと、多彩な物語が記されていた。東方綺譚、海洋活劇、革命秘話、秘境探検、ウェスタン、航空推理――そして、数々の殺人事件。物語が世界を縦横無尽に飛びまわり、重大な秘密へと誘う。全てのピースが嵌まる快感がたまらない博覧強記の本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2003~2005年、『ミステリマガジン』に不定期掲載。2005年4月、早川書房 ハヤカワ・ミステリワールドより単行本刊行。2013年9月、角川文庫化。

 森江春策がひもといた物語は、東方綺譚「新ヴェニス夜話」、海洋活劇「海賊船シー・サーベント号」、革命秘話「北京とパリにおけるメスメル博士とガルヴァーニ教授の療法」、秘境探検「マウンザ人外境」、ウェスタン「ホークスヴィルの決闘」、航空推理「死は飛行船(ツエツペリン)に乗って」の六編。年代も1709年から1937年と幅広い。芦辺らしい博覧強記な部分もしっかりとある。この謎の本の物語はいずれも短編であり、テンポよく進むので読み易い。しかし所々で首をひねる箇所があり、気にしつつ読んでいると最後に全ての謎が解ける。構成としては悪くない。
 ただ、現在の事件の方が非常に物足りない。雪の密室殺人にはなっているが、その謎ときは拍子抜けだし、そもそも事件を推理する間もなく解決してしまう。これは勿体ないと思った。だいたい“三百年の謎匣”なんてもったいぶる割に、こんなあっさりと終っていいのか。密室殺人なんてなかった方がよかったんじゃないだろうか。その方が謎匣にふさわしい現代パートの事件を創造できたんじゃないかと思ってしまう。
 だいたいこの手の作品って、現代パートが今一つなことが多い。もうちょっとボリュームをつけて考えてほしかったと思う。