平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

メアリ・H・クラーク『誰かが見ている』(新潮文庫)

 二年半前に最大の妻ニーナを殺されたスティーヴは、今また一人息子と恋人を誘拐された。犯人はフォクシーと名のる正体不明の男で、二人はニューヨーク・グランド・セントラル駅地下の一室に閉じ込められて爆死する運命にあった。爆弾セット時刻は故意か偶然か、ニーナ殺害犯の処刑時刻と一致している……。恐怖と悪夢の数日をスリリングに描いて近来出色の大型サスペンス。(粗筋紹介より引用)
 1977年、アメリカで発表。作者の第3長編。1979年1月、邦訳刊行。

 主人公のスティーブン・ピータスンは雑誌編集長。強烈な死刑賛成論者。二年半前に妻ニーナを、当時17歳のロナルド・トンプスンに殺された。コラムニスト、作家であるシャロン・マーティンはスティーヴの恋人。そして強烈な死刑廃止論者。19歳になったロナルドの死刑執行日が近づくなか、スティーブとシャロンは死刑制度の是非について争っていた。一方、ロナルドの弁護士であるボブ・カーナーは、ロナルドが無罪であると信じ、死刑執行の延期を求めると同時に、無罪の証拠を捜しまわっていた。スティーブの一人息子である小学一年生のニールとシャロンはスティーヴの家で、(フォクシー)と名乗る男に誘拐される。スティーブは身代金を要求され、払わない場合は二人は爆破される。その爆破時刻は、ロナルドの死刑執行時刻であった。
 作者の代表作であるタイムリミットサスペンス。スティーヴ、シャロン、フォクシー、ロナルド、ボブ、FBI捜査官のヒュー・テイラーなど場面の切り替えが早く、サスペンスの盛り上げに買っている。
 ただ死刑制度の是非を絡めるのは、個人的には好きになれない。議論のやり取りの底が浅すぎて、ただ上っ面を物語に組み込んだ感がある。とはいえ、あんまり深い議論をされてもエンタメにはならないので仕方がないしな、難しいところ。
 素直にタイムリミットサスペンスを楽しめれば、それでいい作品なのかな。そう思うことにした。