平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』上下(文春文庫)

 中国の密航船が沈没、10人の密航者がニューヨークへ上陸した。同船に乗り込んでいた国際手配中の犯罪組織の大物“ゴースト”は、自分の顔を知った密航者たちの抹殺を開始した。科学捜査の天才ライムが後を追うが、ゴーストの正体はまったく不明、逃げた密航者たちの居場所も不明だ――果たして冷血の殺戮は止められるのか。(上巻粗筋紹介より引用)
 冷酷無比の殺人者“ゴースト”は狡猾な罠をしかけ、密航者たちのみならずライムの仲間の命をも狙う。愛する者たちを守るには、やつに立ち向かうしかない。真摯に敵を追う中国人刑事ソニーの協力も得、ライムはついにゴーストの残した微細証拠物件を発見する――見えざる霧のような殺人者は何者なのか? 大人気シリーズ第4弾。(下巻粗筋紹介より引用)
 2001年発表。2003年5月、文藝春秋より邦訳単行本刊行。2007年11月、文庫化。

 リンカーン・ライムシリーズ第4作目。タイトルの「石の猿」とは孫悟空のこと。
 今回の相手は国際手配中の蛇頭の大物“ゴースト”。共産主義国家であり、西洋とは考え方の違う中国人が相手ということもあり、さすがのライムも戸惑うところがあるのは面白い。
 ただゴーストの正体、所々生じる違和感、どんでん返しの連続といったあたりは、ディーヴァー流と言ってしまえばそれまでだが、パターン化されているのも事実。こういう作風に新味を求めるのは難しいが、読者の想像以上の物を求めてしまうのは悲しい性なのかもしれない。まあ本作で言えば、当時アメリカではあまり知られていなかった蛇頭を持ってきたあたりが新しい試みなのだろうが、日本人が読むとさして違和感がないので、やや肩透かしにあった気分になったのかもしれない。
 とはいえ、高いレベルでの希望を書いてはいるものの、ディーヴァーの標準作とは十分に言えるだろうし、読んでいる間は面白いのも確か。この次も読んでしまうだろう、という巧さはさすがとしか言いようがない。