法律家を目指す学生・
2020年、第62回メフィスト賞受賞。同年7月、講談社より単行本刊行。2023年4月、文庫化。
作者は執筆当時、司法修習生。受賞後は弁護士の傍ら、執筆を続けている。
本作品は「第1部 無辜ゲーム」「第2部 法廷遊戯」の二部構成。
第1部では法都大ロースクール最終学年の久我、織本が二人の過去に触れた嫌がらせの事件が中心となる。既に司法試験を合格している同級生、結城馨の助言で事件は治まったが、真犯人はわからないままであった。現役で司法試験に合格した久我と織本が1年間の司法修習を終えたとき、研究者の道を歩んでいた結城から「無辜ゲーム」開催の案内が届く。かつて開かれていた模擬法廷へ向かった久我は、胸元にナイフが刺さって死んでいる結城を発見する。そしてそばにいたのは、血まみれの織本だった。
第2部は弁護士となった久我が、殺人罪で起訴された織本の弁護を引き受け、裁判に挑む。しかし無罪を主張する織本は久我との面会でも、肝心なことは何も話さず、必要なことを指示するだけだった。
うーん、法廷を舞台にしたパズルとしては面白い。どう裁判を終わらせるかという組み立て方は、法律家という点を差し引いてもうまい。罪と罰、犯罪と更生、児童養護施設問題なども絡め、二部構成にすることによって青春小説と法廷物を融合させたその腕は見事。しかも面倒な法律問答をせずにわかりやすく裁判を終わるまで書ききったのは凄いと言っていい。これで主要登場人物3人の心理面がもう少し描かれていると、法廷物ジャンルの傑作となったかと思うと、惜しい。
なぜこの人はこんな行動をとるのだろう、もっと別の道があったのではないか、という点がちょっと弱い。心理面で納得させる前に行動として現れてしまうので、読者としては納得せざるを得ないのだが、動機の部分が弱いのは否めない。
処女作とは思えない完成度の高さ。弱点がないわけではないが、これだけ書ければ十分だろう。しかし法廷物が好きな私が、これを今までスルーしていたのは悔しい。