平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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柾木政宗『NO推理、NO探偵?』(講談社ノベルス)

 私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。決めた! 私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育てる! そのためには……ねえ。「推理ってべつにいらなくない――?」。NO推理探偵VS.絶対予測不可能な真犯人、本格ミステリの未来を賭けた死闘の幕が上がる!(粗筋紹介より引用)
 第53回メフィスト賞受賞。2017年9月、講談社ノベルスより刊行。

 美少女女子高生美智駆アイは名探偵。切れ味鋭い推理で緻密なロジックと複雑なトリックを全部喋ってしまうものだから、推理の場はいつも長丁場。同級生の助手取手ユウは、アイをもっと世間に跳ねさせるため、アイにこう問いかける。「推理って、別にいらなくない?」。しかしプロローグである犯人がアイに催眠術みたいなのをかけたため、アイは推理ができなくなった。ここはユウの出番。アイを名探偵にするために、ユウはいろいろと考える。
「第一話 日常の謎っぽいやつ」「第二話 アクションミステリっぽいやつ」「第三話 旅情ミステリっぽいやつ」「第四話 エロミスっぽいやつ」「最終話 安楽椅子探偵っぽいやつ」。
 ということで、「メフィスト賞史上最大の問題作!!」というふれこみの本作。推理ができなくなった名探偵アイのために、助手のユウが「日常の謎」「アクションミステリ」など各章のタイトルにあるようなジャンルの名探偵に育て上げようと、実際の事件を通して悪戦苦闘する物語である。こう書くとまともな本格ミステリっぽく見えるが、はっきり言ってバカミス。名探偵と助手というより漫才師に近いコンビが、それぞれのジャンルのお約束を駆使……というより揶揄しつつ、ギャグに一部メタを混ぜて事件の解決に挑む。これがなんとも、同人誌の悪いノリレベル。読んでいて苦痛しかない。ところが最終章になるとメタレベルで読者への挑戦状が登場し、本格ミステリに回帰する。まあよくぞここまで引っ張ったものだと感心してしまった。とはいえ、評価するほどではないが。
 この作品で唯一感心したところは、ワセダミステリクラブの先輩による未完のトリックを完成させたところかな。メタレベルとはいえ、これをここに持ってくるか。
 はっきり言って馬鹿馬鹿しいです。冗談がわかる人だけが読んでください。ただ、編集部がこれを出版したくなる気持ちはわからないでもない。