平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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加納朋子『1(ONE)』(東京創元社 創元クライム・クラブ)

 大学生の玲奈は、全てを忘れて打ち込めるようなことも、抜きんでて得意なことも、友達さえも持っていないことを寂しく思っていた。そんな折、仔犬を飼い始めたことで憂鬱な日常が一変する。ゼロと名付けた仔犬を溺愛するあまり、ゼロを主人公にした短編を小説投稿サイトにアップしたところ、読者から感想コメントが届く。玲奈はその読者とDMでやり取りするようになるが、同じ頃、玲奈の周りに不審人物が現れるようになり……。短大生の駒子が童話集『ななつのこ』と出会い、その作家との手紙のやり取りから始まった、謎に彩られた日々。作家と読者の繋がりから生まれた物語は、愛らしくも頼もしい犬が加わることで新たなステージを迎える。(帯より引用)
 『紙魚の手帖』voL.01(2021年10月号)、07(2022年10月号)、08(2022年12月号)、09(2023年2月号)掲載。2024年1月、単行本刊行。

 大学生玲奈の飼い犬ゼロとの交流を書いた「ゼロ」、玲奈の兄はやてが飼い犬ワンを飼うきっかけから亡くなるまでの交流を書いた「1(ONE)」前、中、後編の計4編を収録。作者の処女作『ななつのこ』から続く駒子シリーズ、20年ぶりの新作。
 久しぶりに読む加納朋子。リストを見たら21年ぶりだった。って、『スペース』を読んでいなかったことに今さら気づく。まあ、いいか。
 「初めに読んでいただきたいまえがき」で「ミステリ畑の敷地境界線上をうろうろしていた私ですが、本書もミステリ色はあんまり強くありません」と強調していたが、加納朋子にそんなものは求めていない。加納朋子が味わえれば、それでいい。
 ということで駒子シリーズということなのだが、肝心の駒子シリーズを人間関係以外ほぼ覚えていないのは申し訳ない。多分過去作品と関連するものが散りばめられているんだろうなあ、と思うところはいくつかあるものの、それがどう繋がっているのかがわからない。
 ということで、ほぼシリーズを覚えていない状態で読んだのだが、全くと言っていいほど問題はなかった。ほんわかする作品だし、さりげなくちょっぴり謎があるところも変わっていないし、登場人物や犬たちの温かさもこの作者らしい。
 何気ない日常のちょっとした事件。そして他愛ない話かもしれないが、家族にとっては大事件。当事者にとっては深刻だが、それ以外にはさして響かない事件。そんな中で生まれたり、確認できたりする絆。そういうのを書かせたら、本当に巧いと思う。ミステリベストには入らないだろうが、いい話を読んだなと思わせる一冊だった。
 個人的にはサイドストーリー好きだし、期間限定特別掌編が楽しかったので、彼らと出会えるこのような掌編をもっと書いてほしいところである。