平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』(早川書房)

 一九四四年、ヒトラーによるナチ体制下のドイツ。密告により父を処刑され、居場所をなくしていた少年ヴェルナーは、エーデルヴァイス海賊団を名乗るエルフリーでとレオンハルトに出会う。彼らは、愛国心を騙り自由を奪う体制に反抗し、ヒトラー・ユーゲントにたびたび戦いを挑んでいた少年少女だった。ヴェルナーはやがて、市内に敷設されたレールに不審を抱き、線路を辿る。その果てで「究極の悪」を目撃した彼らのとった行動とは。差別や分断が渦巻く世界での生き方を問う、歴史青春小説。(粗筋紹介より引用)
 2023年10月、書下ろし刊行。

 『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞、2022年本屋大賞を受賞した作者の第二作目。相当なプレッシャーがかかっていたと思うが、選んだ舞台は終戦直前のドイツのある田舎町であり、主人公は父を密告によって処刑されてしまい、天涯孤独の労働者少年ヴェルナー。
 エーデルヴァイス海賊団は実際に存在した、ナチスヒトラーユーゲントへ反抗する少年少女たちの集まり。何かで聞いたことはあったが、詳しい内容は知らなかった。前作に続き、日本ではあまり取り上げられない舞台を取り上げるのはうまいと思う。
 戦争と抵抗、差別や区別、戦争悪と黙認。うまく物語に取り込んでいるとは思う。青春ドラマとしてはよくできている。所々で背景の説明が長いのは欠点であるが、あまり知らない内容ということもあり、特に気にはならない。
 ただ、ストーリーが陳腐化していると思う。どの作品かと言われてもなかなか思い出せないのだが、既視感は免れない。当時のドイツの舞台と歴史を物語に巧く絡めているとは思うし、読んでいて面白いのだが、予定調和な終わり方に感じた。
 それなりの満足感はあるのだが、腹八分目の面白さで終わってしまった。もう一皿おかずが必要だったのか、それとも味付けにもう一工夫が必要だったのかはわからないが、どちらかといえば後者か。