平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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トム・ロブ・スミス『エージェント6』(新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)

 
エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

エージェント6(シックス)〈下〉 (新潮文庫)

 

  運命の出会いから15年。レオの妻ライーサは教育界で名を成し、養女のゾーヤとエレナを含むソ連の友好使節団を率いて一路ニューヨークへと向かう。同行を許されなかったレオの懸念をよそに、国連本部で催された米ソの少年少女によるコンサートは大成功。だが、一行が会場を出た刹那に惨劇は起きた――。両大国の思惑に翻弄されながら、真実を求めるレオの旅が始まる。驚愕の完結編。(上巻粗筋紹介より引用)
 1980年。ニューヨーク行きの野望を断たれたレオは、ソ連軍の侵攻したカブールで、設立間もないアフガニスタン秘密警察の教官という職に甘んじている。アヘンに溺れる無為な日々がつづくが、訓練生ナラを伴ったある捜査で彼女とともにムジャヒディン・ゲリラに囚われてしまう。ここにいたって、レオは捨て身の賭けに出た。惜しみない愛を貫く男は何を奪われ、何を与えられるのか?(下巻粗筋紹介より引用)
 2011年7月、イギリスで刊行。2011年9月、新潮文庫より翻訳刊行。

 

 『チャイルド44』『グラーグ57』に続くレオ・デミドフ三部作完結編。1950年のレオとライーサの出会い。15年後のニューヨークで発生したある事件。さらに15年後、アフガニスタン紛争が始まったカブールでアフガニスタン秘密警察の教官として働くレオに降りかかる事件。大国の思惑に振り回されるレオ。
 この三部作を通して読むと、よくぞまあレオ・デミドフが粛清されなかったものだと驚くばかり。当時のソ連なんて、ちょっとした反乱分子でもすぐに処刑していたようなイメージがある。小説上の都合はともかく、本作ではソ連以外にもアフガニスタンやニューヨークまで舞台が飛び、大国の思惑に翻弄されるレオ・デミドフの数奇な運命が描かれる。とっくの昔にくたばっていてもおかしくないレオが生き続けるのは、ライーサへの愛。そして家族への想い。ソ連という国の表と裏を描きつつ、家族愛というテーマで壮大な三部作を書いたことは素直に評価されるべきだろう。
 それ以外の点については、ご都合主義というしかないけれど、もうここまで来ればそれでいいよ、とは言いたくなる。ここまで国に振り回されて、生き延びたのだから。