平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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駄犬『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)

 勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。
 魔王が倒されてから四年。平穏を手にした王国は亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。
 かつて仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者・ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。
「何故、勇者は死んだのか?」
 勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。
 王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。(粗筋紹介より引用)
 『小説家になろう』掲載作品に加筆修正して、2023年9月刊行。

 作者の名前は、そのまま「だけん」と読む。あとがきを読むと45歳とのこと。本作と同日に『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』(GCN文庫)が出版されており、本作は二作目という位置付けである。
 なぜ勇者アレクは、魔王を倒した後に死んだのか。勇者への褒賞品でもあった王女アレクシアは、亡き勇者を讃えるべく、その偉業を文献に編纂する。国の勇者養成機関であるフォルム学院でいっしょであり、勇者候補で、そして勇者とともにパーティを組んで魔王と戦ったレオン、マリア、ソロンらから話を聞き、勇者の足跡を追っていく。合間には、レオンたちの語る内容の勇者視線が挟まれる。
 人に薦められたことと、タイトルに魅かれて読んでみることにした。もしかしたら隠れたミステリの傑作じゃないか、なんて思って。残念ながらミステリではなかったが、とてもとても面白かった。
 平民出身で、剣も我流で強くなく、魔力も全然ない。しかし、ただひたむきに同じ努力を繰り返す。そんな主人公の姿に泣けてくる。よくある異世界物のチートな主人公ではなく、本当にただの凡人である。昔の根性ものの主人公のような、誇張された悲壮感はない。ただどれだけ努力したかは、短い文章の行間から伝わってくる。なかなか巧い書き方だ。
 そして物語は、なぜ勇者が死んだのかという謎に迫っていく。一つ一つの行動の中に、他人を思う気持ちが隠されている。色々な思いが交錯し、めぐり逢いとすれ違い、そして別れが生まれる。
 正直に言うと、予想外の着地点に驚いた。もちろんそれは、いい意味においての驚きである。そして読み終わった後の満足感が長く続く。いい作品を読んだな、という余韻が長く続く。そう、読み終わってもあとからじわじわ来るものがあるのだ。傑作というわけではないだろう。しかし目が離せない。ほとんどの登場人物の不器用さは、作者の不器用さと重なるものがあるのだろう。そんな苦しみと達成感が行間から漂ってきて、読者を酔わせてくれる。
 いいものを読んだという思いが強い。そしてエピローグの後の後日談も味わい深い。うん、面白かったと自信を持っている作品である。いい本を薦めてもらった。