平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

市川憂人『揺籠のアディポクル』(講談社)

揺籠のアディポクル

揺籠のアディポクル

  • 作者:市川 憂人
  • 発売日: 2020/10/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 半人形――それがコノハの最初の印象だ。隻腕義手の痩せた少女が、タケルのただひとりの同居人だった。医師の柳や看護師の若林とともに、病原体に弱い二人を守るはずだった無菌病棟、通称《クレイドル》。しかし、ある大嵐の日、《クレイドル》は貯水槽に通路を寸断され、外界から隔絶される。不安と焦燥を胸に、二人は眠りに就き、――そして翌日、コノハはメスを胸に突き立てられ、死んでいた。外気にすら触れられない彼女を、誰が殺した?(帯より引用)
 2020年10月、書き下ろし刊行。

 

 二人きりしかいない無菌病棟で少年と少女は出会った。淡い恋は、メスで刺された少女の死体で終わりを告げた。。アディポクル、adipocereは死蝋を意味する。
 うーん、なんとも感想が書きづらい話。序盤は悪くないんだけどね。病気の二人が互いに淡い思いを抱くという展開は、王道であるけれど、面白い。特に無菌病棟で二人きりしかいない、という状況は色々と期待したいんだけど、コノハが死んでからは予想を上回る展開。ただそれが、かえって物語をつまらなくしているのが残念。
 作者が作者だから、本格ミステリを期待したのだが、これだけははっきり言うけれど、本格ミステリじゃない。うーん、一応は本格ミステリか。謎解きと推理と解決はあるから。ただ、読者の期待した方向ではない。そして、読者が望んだ方向でもないはず。「読者」と書くのは大げさすぎるか。私はこういうのを望んではいなかった。予想の斜め上を行って、しかもそれを知った瞬間にここまでがっかりするというのも珍しい。頑張って舞台を作って、色々と調べているんだろうなとは思うのだが。それでもあまりにも作り物めいていて、世界を楽しむこともできないが。
 本格ミステリだと思わないで読んだら、少しは感想が違ったかもしれない。それが結論かな。感動系の物語にすべきだったんじゃないの。