平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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阿津川辰海『午後のチャイムが鳴るまでは』(実業之日本社)

 他人から見れば馬鹿らしいことに青春を捧げる高校生たちの群像劇と、超絶技巧のトリックが見事に融合。稀代の若き俊英が“学校の昼休み”という小宇宙を圧倒的な熱量で描いた、愛すべき傑作学園ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 『THE FORWARD』『Web ジェイ・ノベル』2022~2023年掲載作品に書き下ろしを加え、加筆修正のうえ2023年9月刊行。

 2021年9月9日、九十九ヶ丘高校2年生の結城と日下部顕は、昼休み校外外出禁止の校則を破り、無料券を手に近くのラーメン屋で昼食を食べる計画を立てた。タイムリミットは昼休みの65分。文化祭準備で忙しい校内を2人は、体育館裏のフェンスの穴からひそかに抜け出した。「第1話 RUN! ラーメン RUN!」。
 来たる文化祭で販売する部誌の校了直前、学校で合宿していた文芸部員たち。なんとか原稿はそろったものの、表紙イラストが昼休みになっても届かない。イラストレーター「アマリリス」こと3年生の司麗美は家で描いているはず。2年生の楢沢芽衣は川原聡と一緒に家へ行こうと体育館裏のフェンスの穴へ向かったら、偶然麗美の姿を見かけた。逃げる麗美を追いかけて体育館を曲がると、麗美の姿は消えていた。近くに居た1年生の男子に聞いても、女子生徒は通らなかったという。麗美はどこへ消えたのか。「第2話 いつになったら入稿完了?」
 2-Aの男子全員は6月から毎週木曜日、消しゴムポーカーで遊んでいる。13人の男子が1人4個ずつ、トランプの図柄が書かれた消しゴムを保管し、ポーカーをしているのだ。9月の第2木曜日に行われる第2回大会を前に、今本がクラスのマドンナに告白すると宣言。本人のいないところで争った結果、第2回大会の優勝者が告白する権利を得ることとなった。「第3話 賭博師は恋に舞う」。
 水曜日の放課後、占い部の茉莉は、文化祭に向けて明日プレオープンする「占いの館」の扉の外で「星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ」という男の声が聞こえてきた。翌日の昼食中、茉莉は友人のアリサとエミと一緒に、この言葉の意味を推理する。「第4話 占いの館へおいで」。
 体育教師兼生活指導の森山進は、机の上に置いてあった17年前の学校新聞「ツクモ新報」を見て、当時の事件を思い出す。屋上の天文台から、2年生の浅川千景が消失したのだ。森山は浅川と同じ当時の天文部員であり、そして目の前で消えるところを見ていた。森山の元へ書類を持ってきた生徒会長は、風で飛んだ新聞を拾い、「十七年後の今日、解かれることが定められていたのです」と言い立てた。「第5話 過去からの挑戦」。

 阿津川辰海による、日常の謎学園ミステリ。倒叙もの、消失トリック、賭博、推論、再び消失トリックと様々なジャンルを交えつつ、学園ものらしいやり取りが繰り広げられる。
 帯の言葉だと若林踏の「一瞬の煌めきを多種多彩なミステリの型や技巧とともに描いた、青春群像小説」という言葉が一番ピッタリくるかな。大人から見たら馬鹿馬鹿しいかもしれないことに情熱を傾け、そして恋に心をときめかせ、友情に熱くなっていた時代。舞台や手に取るものは変わったかもしれないが、あの頃の心は永遠。
 まあ、青春小説として読むには、昔の青春作品のパターンを踏襲しているな、という部分はあるにしろ面白く読める。ただ、本格ミステリとして読むとどうだろう。単品のミステリとして面白いのは、せいぜい「第4話 占いの館へおいで」ぐらいだろうか。ストーリーを読めばすぐにわかる通り、「九マイルは遠すぎる」にインスパイアされた作品である。ただ、あまりにもストレートなオマージュなので、ひねりがないのは残念。
 この作品のキモは「第5話 過去からの挑戦」で傍点を打っていた箇所だったようだ。ただ最初から〇〇が出てこない時点ですぐにわかってしまうし、わざとらしい〇〇表示もどうかと思う。勘が悪くても、第2話の時点でほぼ予想がつくだろう。タイトルももう少し考えた方がよかったんじゃないだろうか。
 とりあえず面白く読めるんだけど、この作者に求めるものからしたら微妙だね。読者が「作者に求めるもの」なんて、勝手な押し付けでしかないんだけど。続編ってあるのかな、これ。この登場人物なら読んでみたい気はする。長編向きではないだろうが。