平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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阿津川辰海『蒼海館の殺人』(講談社タイガ)

 学校に来なくなった「名探偵」の葛城に会うため、僕はY村の青海館を訪れた。政治家の父と学者の母、弁護士にモデル。名士ばかりの葛城の家族に明るく歓待され夜を迎えるが、激しい雨が降り続くなか、連続殺人の幕が上がる。刻々とせまる洪水、増える死体、過去に囚われたままの名探偵、それでも――夜は明ける。新鋭の最高到達地点はここに、精美にして極上の本格ミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2021年2月、書下ろし刊行。

 

 『紅蓮館の殺人』の続編ではあるが、「名探偵」の葛城輝義と「助手」の田所信哉が前作で精神的に傷ついているという事実さえ押さえておけば、そちらを読まなくても特に問題はない。というか、私自身、『紅蓮館の殺人』は読んでいない。多分続編なんだろうなと思いながらも、こちらを先に手に取った。
 高校を休んでいる葛城輝義に会うために、祖父惣太郎の四十九日に合わせて休み中の連絡事項を持ってきたという名目で、隣の県の山奥にあるY村の高台にある実家の青海館を訪れる田所信哉と友人の三谷緑郎。青海館にいる家族は、父親で政治家の健治朗、母親で大学教授の璃々江、兄で警察官の正、姉でトップモデルのミチル、叔母の堂坂由美とその夫で弁護士の広臣と息子の小学生夏雄、祖母で認知症を患うノブ子。そして誰が出したかわからない招待状で来ている、雑誌記者でミチルの元カレ坂口、夏雄の家庭教師の黒田、葛城家の主治医で輝義の実兄である丹波梓月。台風で帰れなくなった館で起きる連続殺人。大雨による氾濫で橋は流され、村は水位が上がり水没の危険が起きている中で、「名探偵」は推理する。
 正直、村が水没するという地理関係がよくわからない。しかも村より標高が35mも上の高台にある館まで水没するというのは、どういう位置に配置されているんだ? なのに電気も通信も遮断されないって、どうなっているんだ? まあそういうことは考えないようにした方がいいのだろう。
 「助手」の田所信哉による一人称視点で話が進むのだが、この田所自身が前作でかなり心に傷を負っているらしく、くよくよ、もたもた、グタグタしていて、読んでいて本当に鬱陶しい。おまけに「名探偵」の葛城輝義もグズグズしているし、本当に苛立ってくる。二人が高校生だということを考慮しての成長物語という見方もあるだろうが、今更名探偵や助手の苦悩なんて、読みたくもない。
 おまけに嵐の山荘、館内での連続殺人(ご丁寧に〇〇〇まであり)、トリックまでもう古典本格ミステリのオマージュなのかと突っ込みたくなるぐらい、古い。スマートフォンが死体の身許確認で使われるなどの現代的な要素は一応あるけれど、それでも古い。さらにいえば、登場した瞬間に本格ミステリならこいつが犯人だと、誰もが思うような人物がやっぱり犯人というのは、どうにかならないものか。
 よっぽどの本格ミステリファン以外にはお薦めしません。どこがいいのか、さっぱりわからない。
 ところで小説中では“青海館”なのに、タイトルが“蒼海館”になっている理由、どこかに書いていますか。読み返す気力もないので、調べていません。