平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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吉野泉『放課後スプリング・トレイン』(創元推理文庫)

 四月のある日、福岡市内の高校に通う私は、親友・朝名の年上の彼氏を紹介される。そのとき同席していた大学院生の飛木さんは、私の周りで起こる事件をさらりと解き明かしてみせる不思議な人だった。天神に向かう電車で出会った奇妙な婦人、文化祭で起きたシンデレラのドレス消失事件……。福岡の街で私はたくさんの答えを探している。解くことが叶わなかった問題も、真相に辿り着けなかった謎も、すべて覚えておこう。今日は見えずとも、形を変えて色を変えて、いつの日か扉を開ける鍵が手に入ると信じて。第23回鮎川哲也賞最終候補作を大幅改稿して贈る、透明感あふれる青春ミステリ。(粗筋紹介より引用)
 2013年、『カンタロープ』で第23回鮎川哲也賞最終候補。大幅に改稿のうえ、2016年2月、創元推理文庫より刊行。

 電車で隣に座ったおばさんが終点に着いても立たず、私はスカートの裾が挟まって立てなかった。しかし後から謝りに来た。これはなぜ。「放課後スプリング・トレイン」。
 学園祭で「シンデレラ」の英語劇をやることになったが、本番直前にシンデレラの衣装が消えてしまった。「学祭ブロードウェイ」。
 駅前で募金活動を行うことになったが、誘ってきた友人がなぜか不審な動きをしている。「折る紙募る紙」。
 親友・朝名の彼氏の小学校教師は、男子生徒が植物の観察日記でなぜか嘘をつくので困っていた。「カンタロープ」。

 鮎川哲也賞関連の落穂拾いの一冊。福岡を舞台にした青春ミステリ……との謳い文句なのだが、いくら日常の謎ものとはいえ、ここまでミステリ味が薄いと、受賞は難しい。謎があっても推理がないのは、日常の謎を勘違いしている作家に有りがち。もしかして最後のトリックが自信満々だったのかもしれないが、あまりにも軽い。大幅に改稿してこれなのだから、応募時はどうだったのだろうと逆に気になった。
 昔の『コバルト』に載っていたようなジュニア小説と言った方が早いのだが、その割には主人公を取り巻く人間関係の描き込みが不足しており、面白みに欠ける。恋愛関係を絡めるつもりであったのならば、もう少し心情を描き込むべきだろう。もしかしたら続編を見越していたのかもしれないが、それだったらあまりにも雑だろう。
 2020年に続編が出ているようだが、さすがに読む気にはならない。正直に言うならば、最終候補に残ったこと自体が不思議であるぐらい、書き込みが甘い作品である。