平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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手塚治虫『ミッドナイト ロストエピソード』(立東舎)

 『ミッドナイト』は、もぐりの深夜タクシー運転手ミッドナイトが、乗客にまつわるドラマにかかわっていく、一話完結形式の連載作品。『週刊少年チャンピョン』に連載された。少年週刊誌の連載にこだわっていた手塚治虫にとって、最後の連載作品である。
 ミッドナイトが運転するタクシーは、自らが改造したもの。ミッドナイトの本名は最初は出てこず、連載の合間で彼の過去が少しずつ明らかになっていく。もぐりのタクシー運転手をしている理由は、恋人が自らの事故で植物人間の状態になり、その治療費を払うためである。
 第1部と第2部があり、第2部ではミッドナイトがエスパーであること、そして意外な展開が用意されている。そのためか、秋田書店手塚治虫漫画全集などでは最終話に至る展開が収録されておらず、後に秋田漫画文庫版で収録された。
『ミッドナイト ロストエピソード』は、単行本未収録11話分とブラック・ジャックの登場回3話分、ミッドナイトに恋心を抱くトラック運転手兼社長の鵲カエデのエピソードが収録された。さらに全67話分の扉絵原画、単行本の表紙絵、予告カット、そして当初の構想作であった『ドライブラー』の原稿などの資料が収録されている。


 久しぶりに手塚漫画を購入。単行本とは違う雑誌掲載版などが多く出版されているが、値段が高くてなかなか手を出す気にならない。『火の鳥《オリジナル版》復刻大全集』(復刊ドットコム)を全巻購入して比べてみると、太陽編を除くとやはり手塚が改めて手を加えた方が面白いなと思ってしまうので、雑誌掲載版にそれほど興味が湧かないというか。本書は単行本未収録作品であったので、手に取ってみる気になった。
 ただ、晩年の『週刊少年チャンピョン』連載作品は、正直言って好きになれない。『七色いんこ』は面白かったが、『プライム・ローズ』『牙人』『ブッキラによろしく』『ゴブリン公爵』はいずれも面白くなかった。実際評判も悪かったようで、『ブッキラによろしく』第1巻をのぞくと、手塚が亡くなるまで単行本にはなっていない。『ブッキラによろしく』第2巻も手塚が亡くなってからの刊行であるが、どう見ても打ち切りっぽい終わり方だった。
 『ミッドナイト』は作者もお気に入りだったようで、かなり気合が入っていた。ただ本人も自覚しているように、絵が青年向けに近いものになっていて、その部分は好きになれない。それでもこの頃は立ち読み(ごめん)で毎週読んでいた。コミックスも買っていた。ただ、最終話にいたるエピソードを除くと、覚えていない。そのため、結構新鮮な気持ちで読むことはできたが、内容としては残念ながら今一つ。正直言って、中身が薄い。相当疲れていたんじゃないだろうか。ブラック・ジャックの使い方も、人気対策で無理矢理引っ張り出してきた感が強い。楽屋落ちみたいな言い回しもやめてほしかった(とはいえ、『ブラック・ジャック』本編の時は楽屋落ちもそんなに気にならなかったんだけどね)。
 第1部と第2部の間に1か月ぐらい空いているけれど、そこで終わりに向けての構想を練っていたんじゃないかと思う。多分人気が落ちていたんだろうなあ。
 どうせだったら、第2部を全部収録してほしかったな。そこから流れが大きく変わっているので、作品の変換がわかったはず。少年週刊誌の連載にこだわっていた手塚治虫にしたら、この終わり方は不本意だったと思う。