ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。
自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、<
現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場!(粗筋紹介より引用)
2010年11月、書下ろし刊行。2011年、第64回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門受賞。
12世紀末のヨーロッパを舞台にしたファンタジー・本格ミステリ。魔法が存在する世界の中の、いわゆる特殊設定ミステリでもある。
素直に驚いたのは、世界観がしっかりしていること。特殊設定ミステリは、その特殊設定の中でのトリックを成立させるだけの舞台になりがちなことがあるが、本作品はミステリ部分を除いてもファンタジー作品として舞台が面白い。その土台としての面白さがあるから、さらに本格ミステリとしてもしっかりと読むことができる。
本格ミステリとしては、証拠と証言を吟味したうえでの、消去法によるもの。ファンタジーの舞台で、このような王道物を読むことができるとは思わなかったが、ファンタジーの部分を壊さない範囲で結末まで引っ張っていく力は大したもの。ただファンタジーファンには、ちょっと物足りないかもしれない。
ただ、実際のヨーロッパを舞台にしている分、歴史からの逸脱が認められないところは逆に弱点になったかも。地に足着いた謎解きを見せられた分、もう少しファンタジー設定で跳ねた部分を読むことができればどうなっていただろう、という思いはある。
作者の代表作にふさわしい力作であるし、協会賞受賞も納得の出来だろう。